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頭は真っ白だ。はあはあと荒い呼吸を繰り返していると、覆いかぶさっていた大きな体がゆっくりと離れて、途端にその温度が恋しくなる。
精悍な顔つきを微塵も動かさずに、シモンはももの上に佇んでいる。だが、その瞳はまるで獅子のように、冷静にも、獰猛にも、ももを見据えていた。
二人の間に言葉はない。だが、確実に、言葉では表せないなにかがあった。
太もものあたりに跨ったシモンは、ももの溶けたまなざしを受け止めながら、メランジのセーターを脱いだ。引き締まった、逞しい肉体が露わになり、ももは息を飲んだ。
「……すごく、きれい…………」
リネンのカーテンから差し込んだ光に、画家には似合わぬ厚い胸板が煌めいている。首や腹には骨や筋肉の隆起によってできた影が落ちて、本当に、ギリシア彫刻を間近で見ているかのようだった。
シモンはももの唇からこぼれた言葉に、目をすがめた。
「……男に言う台詞ではないな」
「いいえ、美しいわ……とても……」
伸ばそうとした手をシモンに絡め取られる。彼の顔は、歓びも、慈しみも、はたまた高揚も、なにひとつそこに載せていなかった。ただ、触れあった手は、ひどく熱かった。
これから先に起こることをももは知っている。本当ならば、その手を振り払うべきであったのかもしれない。この部屋に来る前に、きっと。
だが、シモンが雨の向こうから飛び込んできた瞬間から、ももの気持ちは決まっていた。
熱く、猛ったものが熟した腰に押し当てられる。ももは懇願するような瞳で、シモンを見上げていた。
苦しげに、悲しげに、自分を見下ろす男のことを。彼がその精悍な仮面の下に隠した感情を見せたのは、このときが初めてだったかもしれない。
ももは受け入れた。男のことを。そして、淫らに解き放たれた、自分を。
シモンの唇がそっと降りて、再び行為が始まった。先ほどよりも熱く、激しい、ねっとりとした深い営みが。
「どうか私を愛さないでくれよ」
耳元で囁いた男に、ももは必死に快楽の波に抗いながら、ウィ、ムッシュー、と答える。
神はどこにいたのか。そして、身を捧げる者は何処——。
しん、とした森は、いつしか濃密な空気に包まれていた。
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