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第十五話
光に満ちた、浜辺の風景であった。波打ち際に向けて、一人の女性が歩んでいる。さんざめく水面、黄金色に冴えた砂浜。画面右方は宵の残滓を感じさせる幽かな淡墨のヴェール。太陽こそその実体がそこにはないものの、やさしく、そしてはげしく視線を奪う絹の陽射しの中に彼女は存在していた。
その身を太陽色に染めた、美しい女。風に舞ったガウンに彼女の躰の流線が浮かび上がり、その神秘的な肉感を我々に齎す。波打ち際には、白い猫が彼女とその向こうにいる創造主を見つめていた。
ああ、溢れんばかりの光!
その色彩のなんと濃密で甘美なこと!
まるで、ミルクに蜂蜜をたらしたかのように淡く鮮烈な黎明の中、彼女はたしかに太陽に抱かれている!
背を向けた女のまなざしから息遣い、それから風に舞う艶髪の香り、すべてを鮮明に感じとることができる。
彼女は太陽の寵愛を受けた女神だ。神々しいまでに美しく、つい手を伸ばしてみたくなってしまうほどに、生々しくその女たる馨しい色香を放つ。
ももはその一枚の絵画を前に、自身がどこにいるのかを見失った。そして、あろうことか気がつけばその女神の庭に立っているではないか!
画家が一心にその太陽の恋人を見つめながら、イーゼルの向こうに立っている。男の上体ほどのカンヴァスは横に倒され、逞しい腕の愛撫を受けている。まるで髪を梳かすように、あるいは、風を孕んだ白いシルクを撫でるように、繊細に絵筆がカンヴァスの上で生を受けて動き回る。
「シモン」
さざなみのさなか、女の声が聞こえる。
ウィと短く返事をしながら、画家は悠然たる仕草で真珠色をパレットからとり、カンヴァスに載せる。
「シモン」
女の声はまるで風にそよぐすずらんのようであった。目映い光を幾重もはね返しながら、ガウンが風に遊ぶ。
やがて、太陽を抱く女神に、画家はこの世の慈しみをすべて詰め込んだように微笑った。
そうだ、彼は微笑ったのだ!
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