第十五話

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 ももは彼の言葉を遮った。 「もう、十分よ」  悲痛な声が、乾いた室内にほどけていく。 「おねがい、おねがいだから、それ以上は言わないで」  耳を押さえて、祈るようにジャン=クロードを見上げた顔はなんと情けなかったことだろう。 「これ以上は」  なにもかもを拒絶した女を眺め、男は幕を下ろした。そして、涙に濡れた頬にシルクのハンカチを当てて言った。 「過去はあなたの手の中にある。それだけは忘れてはなりませんよ、モモ」  ジャン=クロードはももをジヴェルニーまで送り届けた。 「遅かったな」  辺りは淡墨がかっていた。目映い光もかげり、丘は静けさに包まれている。アトリエで巻き煙草をふかしていたシモンは、秀でた額に落ちた髪の合間から優しくももを受け入れた。 「シモン」  ももは震える声で彼を呼んだ。 「どうした」  そのおかしな様子に気づいて、彼は立ち上がりももの頬にかかった栗毛をよける。 「——を、描いて」  太陽の色を遺した、淡い緑黄色がももを見つめている。 「わたしを、あなたの手で描いて」  おねがいだから、ももは男に(すが)る。これが、最後の望みであった。  シモンは瞑目し、小さくかぶりを振った。 「無理だ(ノン)」  ももはぐっと唇を噛み締める。 「……すまない」  ただ謝罪を口にするシモンの姿を見て、ももは確信した。  それがすべての答えなのだ、と。ももが彼に対して抱いた、大きすぎる感情に対する、あるいは、彼らが描きつつあった未来に対する……。  ももは翌日、ジヴェルニーから離れる決心をした。
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