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第三話
その次の日も、また次の日も、ももはアトリエに通った。
なにをするというわけではない。連日、さわやかな風吹く丘に一台のイーゼルを立てる男の後ろにたたずむ、ただそれだけのことだ。
日に日にカンヴァスと向き合う大きな背中や横顔を見て、ある思いを——いや、感情を抱くようになるのだが、それをはっきりと認識するのは、もう少しあとになってからのことである。……
画家が描いていたのは、いずれもセーヌ河畔の美しい風景だった。光に揺れる水面、艶やかにしだれる柳——連日、カンヴァスに姿を現わすのはいずれも似たような景色だというのに、色使いや筆使いはまったく違う。まるで、一瞬たりとも同じ光景が目の前には広がりはしないとでもいうかのようだった。
時間や気候による変化を筆に載せる——たしか、モネもそうして何枚もの絵を残していたのではなかったか。
そんなふうに男の絵を思い出しては、ももはたびたび、昔見た美術の資料集とガイドブックに載っていた絵画の記憶を探り出し、画家の意図を探ろうとした。だが、結局、それもまた彼の描く光のヴェールに包まれ、最後まで辿れることは一度もなかった。
画家がなんのために絵を描くのか、また、なぜ、風景画だけなのか。
川面に浮かぶ小さな泡のようにふつふつと疑問がいくつも浮かびはしたが、いざ男を前にするとそれらは一つも言葉にはならなかった。喉元のむずがゆさを、昼用に買ったカスクートやクロワッサンを頬張っては、もぐもぐとじっくり咀嚼したあとに、それらをぐっと飲み下すにとどまった。
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