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 今なら、あの時の主将や森の気持ちがわかる気がする。嫌がるそぶりをする兄さんのおびえた目も、今にも涙がこぼれ落ちそうにわななく表情も唇も、どうしてか目に入るものすべてが昂らせてくれる。兄さんの体は汗をかいていて、手のひらをつけるとしっとりとした生温かさが伝わってくる。その温度だけで思わず声が出そうになる。  陸上で引き締まった兄さんの両脚を肩に乗せながら、 「兄さん。男ってさ、初めてした相手のことをずっと忘れないっていうじゃん? 兄さんもそうなのかな。彼女とはまだしてないんでしょ? だったらおれのこと、一生忘れない?」  刺激が強すぎたのか、兄さんは首を振るだけの気力しか残っていないようだった。初めての相手。そう口にしてフッと笑いがこみ上げた。主将や森とのアレはセックスなんかじゃない。一方的に嬲られて穢されただけだ。小学校の時のアレだって決して。 「好きだよ。兄さん、おれずっとまぁちゃんが好きだったんだ」  投げやりなわけではないと思う。自分をないがしろにしているつもりもない。ただ、あんなことがあって、もともとそれほどきれいな人間でもなかった自分の中身が真っ白に曇ってしまったようで、大事なものもそうでないものも見えなくなっている気がした。  いつかカレーを食べながら一緒に見たあの映画の歌にさ、こんな歌詞があるんだ。 「きみを思うことが僕の生きている意味なんだ」って。  映画の話はあんまり覚えてないけど、あの歌を思い出すたびにあぁそうだよなって思うんだ。  兄さんを好きで、いつか兄さんを支配したいって気持ち。それが僕の生きている意味なのかなって。 end
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