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 夏休みも終わりに近い頃、森から着信があった。  あのことがあって以来、残り少ない一学期の間はあからさまに森と高橋を避けていた。お互いに小学校の頃からスマートフォンを使っていたから番号は知っているけど、中学に入ってからはやりとりなんてしていない。  無視していると今度はメッセージが届き、『あんな思いをさせたことをちゃんと謝りたい』と、どの口が言うのか不躾にも程がある一文が表示された。  口元が歪む。ふん、と声に出ていた。  続けて、『今、家の前にいる』。怒るとか何か攻撃を加えるより、徹底的に無視をすることで森という存在自体を排除したかった。それでもふてぶてしくこちらの視界に入ってくるほどのタフさを、あの男は持ち合わせていた。玄関の戸を開け顔は上げずに、泥が乾いて染みついた森のスニーカーをにらみつけていた。次の瞬間、森が吐いた言葉におれは戦慄した。 「兄貴には黙っててやるから、今から俺の家へ来い」  声は出なかったけれど、顔を上げ、森をにらむ目にすべてが現れてしまっていた。思った通りの反応が見れたことに少なからずヤツは喜んでいた。「とにかく、ここで話せることじゃないからよ」とニヤけた森の顔は薄暗いひずみを生じていた。 「アキ、もう一回。いいよな?」  まるで自分の女にでも言うみたいに、何が嬉しいのか突っ込んだままニヤけた顔で森が言う。昭継というおれの名前を「アキ」なんて呼ぶ奴はいない。  教育委員会のお達しで、週に二日はどの部活動も休まなければならない。ただし、大会直前の部は通常メニューを組むことが許されていて、森の所属する部をはじめ戦績を挙げている部は夏休みも毎日のようにトレーニングや練習試合が組まれていた。  レギュラーメンバーじゃない森はラッキーだった。引退試合を控え汗まみれでグラウンドを走り回っている主将や先輩達の目を盗んで、こんなことを今しているんだから。
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