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 俺は性格が悪い。    しかし、それを知っているのは、この世で俺だけ。  学校の先生も、クラスメイトも、親戚も、アルバイト先の先輩も、近所の人も、みんな俺のことを「優等生」と呼ぶ。    家族でさえ、俺のことを「欠点のない優秀な息子」だと自慢する。  学内テストでの成績はつねに一位。体育祭ではリレーのアンカー。クラス委員、学級委員の代表、生徒会書記を務め、体育祭や文化祭などのイベントでは実行委員に名乗り出て、先輩の補佐をする。謙虚で優しく、どんな人にも分け隔てなく接し、先輩には尊敬の眼差しを向け、後輩の努力を誉める。制服は崩さず、つねに清潔感を保つ。お茶目さも忘れず、しかし決して羽目は外さず、つねに周りを観察して、皆をまとめるリーダー。  長所を上げればキリがない。  こんな人間を見たら、誰だって「優等生」と呼ぶ。こんなに完璧な人間はおそらく存在しない。  おまけにスタイルも抜群でイケメンときた。もう怖いものはない。周りの人間とはレベル違う。女の子たちが「王子様」と陰で呼ぶ気持ちもよくわかる。  すべては事実だ。俺は優等生で、欠点のない優秀な息子で、そして王子様。  そうだ。  当たり前だ。  なぜならこの全ては、俺が作り上げた俺自身なのだから。    どういうことかって?  俺は演じているんだ。  優等生を。欠点のない優秀な息子を。王子様を。  つまり、俗にいう''猫かぶり''  本当の俺は、皆が思うような人間ではない。  自覚はある。  もちろん成績は優秀だし運動神経は抜群。そこは俺の努力と生まれ持った才能だ。  しかし、クラス委員をやるとか、生徒会をやるとか、そんなのは本当はクッッッソめんどくさくて堪らない。あんな低レベルの人間たちと放課後残ってダラダラ話し合い、企画やら運営をしなくてはならない。人間のレベルが低ければ、作り上げるものの質も下がる。こんなことなら、俺が一人でやった方が何倍も効率はいいしトラブルも起こらないだろうといつも思っている。しかし絶対にそんなことは言わない。俺はいつだって、にこにこと愛想のいい笑顔を張り付けて、周りのどうでもいい幼稚な意見を聞くフリをしながら、思ってもいない言葉を並べて先輩を煽てている。    それはクラスでも同じだ。みんな俺のことが大好きで、俺を慕っている。俺を嫌いな人間なんていない。先生までもが俺に絶対の信頼を寄せている。  笑えてくる。なんて単純なんだろう、と。  すごいね、素敵だね、さすがだね、とまるで幼稚園児にでも言うような褒め言葉に、爽やかな笑顔と暖かい眼差しをプラスして言う。それだけでみんな、俺のことをいい奴だ、と言う。  本当はそんなこと思ったことはない。全て嘘。口先だけだ。状況に応じて、その人の言ってほしいと望んでいる言葉を、望んでいる言い方と表情で、言うだけ。簡単な作業。心のなかでは馬鹿にしていても、表面上そう演じれば、疑う人間などいない。  正直自分の感情を押し殺して、「優等生」を演じるのは大変だ。疲れるし、ストレスもたまる。  だけど、俺は猫かぶりをやめられない。  なぜなら、最高に楽しいから。最高に気持ちいいから。  本当は蔑まれているとは知らず、ヘラヘラと俺の言葉に嬉しそうにしたり、俺に好意の目を向ける幼稚で単純な奴ら。そんな奴らを心のなかで馬鹿にするのは、超楽しい。言葉巧みに感情を揺さぶって、手の上で転がすのも、気持ちがいい。  これは、恵まれた容姿と頭脳を持ち、性格の悪い俺にしかできない、人生の楽しみ方なんだ。  
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