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朝の会が終わり、川田先生が教室を出た瞬間、皆が相場の席の周りに群がった。
特に女子はキャーキャーとうるさい奇声を発しながら、「どこから来たの?」「何部に入るの?」「兄弟いる?」「スポーツ得意?」「彼女は?」と質問攻め。
当の相場はニコリともしないまま淡々と質問に答えていたが、めんどくさくなったのか、話の途中で騒ぐ女子達を押し退け席を立った。
俺にもこの経験がある。はじめてこの学校に入学したとき、スカートが異常に短い女達が俺の机の周りに群がり、口々にどうでもいいことを聞いてきた。その女達のキツイ香水のにおいと顔に塗りたくられた厚い化粧を見て、心底気持ちが悪いと思った。俺もはじめは一応質問に答えていたが、途中からは面倒になり、何かと理由をつけてその場を離れ人のいないところに逃げた。
そういう女たちを可愛いとかエロいとか言って、話しかけられる度に嬉しそうにニヤニヤ笑う、同じくらい気色の悪い男もこのクラスには多くいる。しかしどうやら相場はその類いの人間ではないらしい。ほんの少し見直した。
立ち上がった相場は「相場くん、どこいくのー?」という女達の声を無視して、何かを探すように教室をぐるりと見渡した。
そして相場の目線が、黒板に今日の日程を書きながら相場の方を盗み見ていた、俺へと向いた。
「菊川くん」
相場が少し大きな声で俺の名を呼ぶ。
まさか呼ばれるとは思っていなかったので少し驚いた。俺がチョークを置いて相場の方に顔を向けると、相場は集まっている人を掻き分け、こちらへズンズンと大股で歩いてきた。
「菊川くん、同じ学年だったんだな。先輩かと思ったけど。」
相場は俺の隣までやってくると、口角を少し上げて笑った。
「僕も驚いたよ、まさか相場くんが転入生だったなんて。これからよろしく。」
俺が笑いかけると相場は、うん、よろしく、と言い片手を差し出してきた。
は?もしかして握手するつもりか?お前みたいな無神経な奴の手は汚れてそうで触りたくねーんだよ。てか普通よろしくの握手とかしねーだろ、子供かよ。
俺は手についたチョークの粉を払い、よろしく、ともう一度言って相場の手を軽く握った。
「でさ、一時間目の授業、生物室だろ?俺場所分かんねーからさあ、一緒に行こうよ菊川くん」
はあ?場所なんてみんなが行く後ろをついていけばいいだろーが。それか周りに群がってた女達に聞けよ。なんでわざわざ俺なんだよ。
「うーん‥僕日誌と名簿を職員室に返してから行くから、遅れちゃうかもしれないし、他の人と行った方が‥」
「菊川くん学級委員なんだろ?先生も言ってたじゃん。分からないことはなんでも菊川くんに聞けって。それに俺、菊川くんと行きたいし」
俺の言葉を遮り、相場がズイと顔を近づけてきた。
うわ、近っ‥。なんだこいつ‥。
菊川くんと行きたい??なんだそれ‥きっも‥。
無理矢理につり上げた口角がピクピクと震える。
「‥うん、いいよ。じゃあ一緒に行こう」
俺がそう言うと、相場は嬉しそうに静かに笑った。
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