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 相場は移動教室のときだけではなく、準備室で片付けをするときも、先輩に整理した書類を届けるときも、昼食を売店へ買いに行くときも、掃除のときも、何かしらの理由をつけては俺を付け回してきた。  五時間目の休み時間、胸がでかいのと小さいのどちらがエロいか、なんていうくだらない話に巻き込まれた。そういう話をするのは俺の作っている優等生王子様キャラには合わないので、トイレに行ってくるね、と席を立った。本当にトイレに行きたかったからちょうど良かった。  廊下に出てトイレまで歩いていると、‥‥やはり相場が後ろに付いてきている。  ‥‥あ~~~~もう、クソウッッッッッッゼェ!!!!  なんだこいつなんだこいつなんだこいつ!!マジでキモイ、キモすぎる。金魚のフン見てぇに付け回しやがって、ああ~~まじイライラする。  なんなんだよ、なにがしたいんだよ。嫌がらせか?嫌がらせだよな???ふざけんな俺が何をしたって言うんだよハンカチまで貸してやったのに!恨みなんてないだろ?  俺のイライラメーターはかなり限界まで来ている。しかしそれを悟られないように、当たり前のように後ろを付いてくる相場に振り返り、俺は優しい口調で話しかけた。 「あのさ、相場くん。」 「なにー?」  眠そうな声で相場が返事をする。  いやなにー? じゃねーよ。言いたいこと分かるだろ。その口調無性に苛つくからやめろ。  俺は眉を下げ少し上目遣いをして、いかにも「困ってます」という表情を作った。 「なんで僕の後ついてくるの?」 「え、嫌だった?」  相場がキョトンした顔で言う。  嫌に決まってんだろ!!!トイレに行くときも後を付けられて喜ぶ奴がいるか!!誰かと一緒にいなきゃ寂しくて死んじゃいますウサギ系女子じゃあるまいし。 「嫌‥ではないけど、トイレに行くときもついてこられると、さすがに少し恥ずかしいかな~‥」  あはは、と笑って見せたが、相場は無表情のまま俺を見つめる。  愛想笑いくらいしろよ、くそ。 「俺もトイレ行きたかったからさ。トイレの場所分からないからついていこうかと思ってさー」  相場はそう言いながら頭をかいた。  はぁ?!移動教室やら掃除のときトイレの前何度も通っただろが! 「あーそうだったんだね。‥あ、僕科学のプリントを取りに行かなくちゃいけないんだった!先にそれを取りに行かないと‥。トイレはこの廊下の突き当たりにあるよ」  こいつもトイレに行きたいからって連れションなんてごめんだ。  プリント取りに行くなんて本当は嘘だが、こいつとトイレに行くよりは次の休み時間まで我慢した方がマシだ。  俺が廊下の先を指差しながらそう言うと、相場は何か考えるように黙った。そして、つぶやくように、 「なーんか俺も尿意失せたわ」  と言った。 「‥え」 「プリント、取りに行くんだろ?俺も行っていい?」  正直、笑顔が引きつっていたと思う。自分より下にいる人間を心の中で見下したり、嘲笑うことはある。でもこんなに嫌悪感を抱いたのは始めてだ。本気で、気持ちが悪い。  俺の顔を見て、相場は口角を上げニヤッと笑う。  ‥こいつ、なに笑ってるんだ。 「‥‥なんでそんなに僕に付いてくるの?」 「俺は菊川くんと仲良くなりたいだけだけど」 「‥‥‥‥プリントを取りに行くのは学級委員の仕事だから、僕だけで行くよ」  俺がそう言うと、相場は俺を見つめたまま、ふーん、と鼻をならした。  
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