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04
体育の授業終わり、ジャージから着替えずにそのまま一階の自動販売機に行くと、見つけた金髪に口元が緩む。
取り出し口から缶ジュースを取っている背中に近づき、声をかけた。
「何買ったの?」
「……なんだ、お前か。よく飽きないな」
振り返った智也くんは少し呆れながら視線を向ける。
飽きない、というのは俺が智也くんに付きまとうことだろう。
「だって俺、智也くんに夢中だもん」
「お前それ、他のやつの前で言うなよな」
口からするりと出た言葉に自分自身驚く。
そうか、俺、智也くんに夢中なのか、と自分で意識していなかったものがすとんと胸に落ちた。
ただ気持ち良いことができればよかったから、誰かに夢中になったことなんてなかったのに。
俺の返答に、はぁ、とため息を吐いた智也くんの耳がかすかに赤くなっていることに気づく。
その赤に俺の心臓はきゅうっと縮み、苦しさを与えてきた。
「あ、炭酸?俺もそれにしようかなー」
「美味いよなこれ」
浮かれる自分を誤魔化すようにまた話しかけると、からっとした笑みが返ってくる。
その笑みはまるで近づいた距離を表しているみたいで、また胸が苦しくなった。
呆れながらも俺が付きまとうことを智也くんは許してくれている。
友達ではないけど、同じ学校の生徒という関係よりは近くなった距離に、俺は我慢できずににやけてしまった。
まだ帰っていないかな、と屋上へと続く扉を開ければ、探していた人物と、初めて見る人物がいた。
「智也さん、俺DVD持ってるんで、今度うち来てくださいよ」
「そうか?じゃあわりぃけど邪魔するかな」
「全然悪くないっすよ!智也さんならいつでも大歓迎っす」
明るいふたつの声が晴れた青空の下で交わされる。
初めて聞く智也くんの明るいけど自然体な声に、ぎり、と唇を噛んだ。
俺はこんなに楽しそうな智也くん、知らない。
扉の閉まった音でふたりが同時に振り返る。またお前か、と口にした智也くんに、並んでいた後輩らしき男子は俺のことを見つめる。
着崩した制服、黒染めしたのがわかる赤っぽい髪に、彼もヤンキーと呼ばれる部類の人物なんだとわかった。
そこでちょうど会話が切れたのか、後輩の男子は智也くんにお辞儀をし、扉へと向かってきた。
すれ違う寸前、舌打ちとともに、不機嫌そうな顔で睨まれる。
俺も心の中で大きく舌打ちをする。見たくもないものを見て、聞きたくもないことを聞いたのだから、不機嫌なのは俺だって同じだ。
後ろで重い扉が閉まったのを感じながら、俺は智也くんに歩み寄った。
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