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08
頬杖をつきながら窓の外に目をやる。
すぐ外にある中庭を眺めあくびをすると、鋭い声が飛んできた。
「こら大月、真面目にやれよー」
「はぁい」
黒板の前で生徒たちを監視している教師に顔を向け、すぐに手元のプリントに視線を落とす。
白い紙には数字や計算式が並んでいた。
「終わったやつから帰っていいからなー。先生も早く帰りたいから皆頑張れよー」
「じゃあ帰らせてよ」
「プリント終わったらな。そもそも赤点をとらなかったら補習を受ける必要ないんだぞ」
えぇー、という嘆きの声を聞きながらシャーペンを手に取る。
ひとつの教室に集められた数人の生徒に混ざり、数学の補習を受けていた。
こんなに面倒ならちゃんと真面目にテストを受ければよかったな。早く智也くんに会いたいな。
今日会う約束はしていないけど連絡すれば会えるだろうか、と数学以外のことを考える。
ぼんやりしながらシャーペンをくるりと回したとき、左にある窓が少しだけ開けられた。
「まだ終わんねぇのかよ」
「智也くん?」
先生にバレないようにだろう、小声でかけられた声に左を向けば、体を屈めた智也くんが窓のすぐ外にいた。
不意に訪れた智也くんとの時間に、俺は手に取ったばかりのシャーペンを置いてにやける。
「なに、どうしたの?俺のこと待っててくれたの?」
先生にバレてないことを確認してから俺も小さな声を返す。すると智也くんは反射的にちげぇよ、と言い、すぐに、いや違うってこともねぇかと自分の言葉を否定した。
「お前が浮気してないか確認しにな」
「え?」
きっと冗談のひとつだったんだろう。けれど不意打ちの言葉に、俺の耳に熱が生まれる。
好きな子に独占欲を向けられるのは、こんなに嬉しいものなのか、と嬉しさと気恥ずかしさが胸に広がった。
「なんだよ、そんなに照れることか?」
「智也くん俺のことちゃんと好きなんだなって思って」
「……お前の言ってることのほうがよっぽど恥ずかしいだろ」
お前のそんな顔初めて見た、とこぼした智也くんにも俺の照れが移ったのか、ふたりで耳を赤く染める。
なんか恋ってくすぐったいな、なんて思いながら俺はカーテンを引っ張る。
ゆったりとしていて、けれどどこかむず痒いところが、春に似ている。
皆が数式と戦っている教室に隠れて、智也くんの薄い唇に吸い付いた。
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