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「ん、」 「はぁっ、純くん、やっぱり上手いね。気持ち良いよ」 口の中のものを舌で刺激しながら、頭上からの声をなんとなく聞く。 熱の含まれた吐息に、あぁ、俺で気持ちよくなってる、と腹の奥が重くなった。 「っ……いっちゃいそうだよ」 いきなよ、もっと気持ちよくなりなよ、と目で訴えながら、じゅうじゅうと咥えているものを吸う。しゃぶり続ける俺の視線の先で、名前も知らないその人は快感に顔を歪ませた。 昼間は子どもたちが元気に遊んでいる公園は、夜になるとひっそりとする。 他に誰もいない公園の隅で俺は、ネットを通じ気持ち良いことをする目的で知り合ったサラリーマンと気持ち良いことをしていた。 どうしよう、ここで寸止めしてもいいし、一回いかせてもいいな。 公園だし立ってすることになるかな。早く突っ込みてぇな。 短く息を吐き出すサラリーマンを見上げながら、俺は冷静にそんなことを考える。 あぁ、早く俺も気持ちよくなりたい。 しかしその願いは、突然向けられた眩しい光によって叶うことはなかった。 「おい、こんなとこでなにしてんだよ」 「ひっ」 反射的に咥えていたものから口を離し、後ろを振り返る。 懐中電灯の明かりでどんな人物かはわからないが、警察だろうかとヒヤッとする。 しかしサラリーマンは警察に見つかったという恐れ方ではなく、違うものへの恐怖、びびっている様子を見せた。 「お、俺帰るよ、純くん」 「え?」 ずり下げていた下着とスーツを焦りながら整えたサラリーマンは、一言残すと逃げるかの如く走って行ってしまった。 えぇ、俺まだ気持ちよくなってないのに。心の中でそんなことをこぼす俺に、懐中電灯の明かりが近づいてくる。 「大丈夫か?」 「え?あぁ、俺?」 意外と声が若いな。俺と同じくらいかな。 声の主の方を目を細めて眺める。俺の表情で眩しいことがわかったのか、俺を照らしていた光は足元に落ちた。 「お前、あいつになんか弱み握られてんのか?」 草を踏み鳴らして現れた人物、そして身に纏っている服に驚く。 紺色のブレザーに青いネクタイ。それは今俺が着ている制服と同じものだった。 「俺、喧嘩だけは強ぇから、力になってやろうか」 脱色している金色の髪、耳たぶに光る銀のピアス。だらしなく出ているワイシャツと、緩んで垂れているネクタイ。 ヤンキーと呼ばれる部類の人物の登場に、俺は目を瞬かせた。 そういえば同じ学年に数人、頭髪検査に応じない問題児がいると聞いたことがある。金髪の生徒も目にしたことがあったかもしれない。 記憶を辿る俺に、おい、と心配そうな声がかかり、はっとする。 「あー、大丈夫大丈夫。今の、無理やりとかじゃないし」 「は?」 「だから、お互いしたくてやってたの」 「……は?」 予想外だったのだろう、ぽかんと口を開けた顔に、あれ、と思う。 最初が眉間にシワの寄った険しい顔つきだったからか、年相当な顔に、なんだ、かわいいじゃんと、ちょっかいをかけたくなる。 「俺さ、女も男もどっちもいけるから、相手してよ」 「はあ?」 驚きとともに怒り、そして恥ずかしさで顔を赤らめたそいつに、ますますいいな、なんて思う。 しかし俺の提案は受け入れられるはずもなく、そいつはくるりと背を向けた。 「俺は相手する気はねぇし、そういうの、誰にでも言うなよ」 「別にいいじゃん、気持ち良くなりたいだけだしさ」 「そーかよ、邪魔したな」 足早に離れていく背中に、残念、と呟く。まぁ、期待はしていなかったけど。 結局、気持ち良くなりたい衝動を持て余した俺だけが、ひとりぽつんと夜の公園に残された。
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