お前は、二人分食べないと。(短編と内容同じです)

5/9
前へ
/17ページ
次へ
   * 「ただいま」 「……おかえり……」  ソファに半分めり込んだまま、なんとか返事だけはする。 「大丈夫か、ちぃ」 「今日は……ちょっと、だめ……」  今日は、午前中からソファにぐったり沈み込んでいた。  清子さんちに行くのも、休ませて貰ってしまった。具合悪いって言うと心配するから、病院を口実にして。  それで時間が経つにつれてだんだんぐったりがひどくなってって、今はついにソファと一体化しちゃってる……。 「そうか。」  夫はソファの前に座り込んで、私の髪の毛がばさっと顔にかかっているのを直してくれて、よしよしって撫でてくれた。  手が冷たくて、気持ちいい。 「胡麻豆腐買ってみた。何か食べたくなったら、試してみてくれ」 「……ごまどうふ?」 「前に、何かつるっとしたのを食べたいって言ってたろ」  言った。  でも、牛乳寒天とか卵豆腐とかは生臭く感じちゃって、果物ゼリーとかプリンとかは口がべたべたして、思ったような「つるっ」は、見つからなかったんだ。 「ほら、これ」 「へー……」  私が食べれなかったら自分が食べるからって、お皿に一個開けてみせてくれた。  真っ白じゃない薄いベージュ色で、ぷるぷるしてる、四角いもの。卵豆腐とかババロアとかに、見た目は似てる。胡麻を、葛で固めてある?……らしい。  お豆腐に胡麻が入ってるとかじゃ、ないんだね……。 「……ちょっとだけ、食べてみてもいい?」 「ああ。好きなだけ食べて、止めて良いから」  夫に見守られながら、スプーンですくって、口に入れた。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

51人が本棚に入れています
本棚に追加