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芋掘りから帰ってきた旦那さんとちぃちゃん(もう一人の「×」も十二個)
「ただいま。」
今日一日、まなの──従姉の娘の遠足に付き添ってくれた夫が、帰って来た。
「お帰りなさい!!」
急いで玄関に行って、出迎える。夫は玄関に上がろうとして、止まった。
私が目の前に立ったままだから、上がれないのだ。
「……どうした?」
「えっ」
どうした、って。メール送って来たじゃない。
「……しないの?」
「何を」
「キス。」
「……え。」
「……え?!だって、」
まなに貰ったメールを見せる。
『楽しかったよー!ありがとう! 名人はすごいイモほり名人だった!( ´艸`) 問題!(*'▽'*)つ×××××××××××× ←これなーんだ?答えは名人にきいてね! まな♡』
「この、『××××』……」
「ああ」
夫はお芋の入った袋をごそごそ探って、薄いビニール袋を取り出した。私の手からスマホを取り上げて玄関の靴箱の上に置くと、空いた手のひらにビニール袋の中身をぱらぱらとあける。
「これが、『×』の答え。」
「これ、キンモクセイっ……」
確かに、よく見ると花片は四つに分かれてるから、「×」に見える、ね……。
……やだ……勘違いした……!
恥ずかしい……!!!!
「……ちぃは、これじゃない『×』が良かったのか」
「ううん、キンモクセイがいいっ!勘違い!勘違いです、忘れてっ……ひゃ!」
逃げようとしたら、捕まった。そのまま頭にちゅってされる。
「ちょ、」
振り向いて抗議しかけたら、おでこに。
じたばたしてたら、右のほっぺに。
にやっと笑って、左にも。
「愛香ちゃんが書いたの、何個だった?」
「じゅうに……」
すっかり大人しくなった私は、捕まえられた腕の中でふにゃふにゃ答える。
「これで、五個目」
鼻先にちゅっとキスをして、夫はようやく玄関に上がった。
「足りない分は、うがいと手洗いしてからだな」
そう言うと私の頭を一撫でして、キンモクセイを持ってない方の手を引くと、楽しそうに洗面所に向かった。
【終】
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