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テレビの中で、テロップを前にしたニュー
スキャスターが淡々と話す。
『昨夜、○○県○○市の県営住宅から、中
学2年生の○○ ○○君が誘拐されました。
○○君は当時一人で留守番をしていて、その
隙を狙った犯行だと見られています。』
入学当時の集合写真からその子の所だけ
切り取ったような顔写真が映る。笑顔すら
浮かべていない、物静かそうな子だった。
『○○君の部屋の壁には笛を吹く男と
それについていく子供の絵が描かれており、
警察はこの特徴から、事件の犯人は昨今誘拐
行為を繰り返す犯行グループ、通称ハーメル
ンの犯行だと考えています……。』
ハーメルン。
心の中でその名前を反芻した。
元はどこかの国の童話で、ざっくり言うと
笛を吹く男に子供が連れ去られるという内容
だった気がする。
その名前をいただいたらしいこの誘拐犯
は、子供ばかりを狙った犯行を繰り返す悪質
な犯罪グループだと言われている。
「ちょっと!聞いてるの?!なんで親の
話を聞いてる途中にテレビなんて見るのよ、
なんで聞いてくれないのよぉおおお!!!」
耳に響いてきた怒鳴り声で、意識が現実に
引き戻される。叫んでいるのは私の養母だ。
ヒステリックに叫ぶ相手に頭を下げると、
髪を掴まれて床にゴンゴン打ち付けられる。
「なんでこんな子引き取らなきゃ行けなか
ったのよ!あの人は帰ってこないし、この子
は私に懐きもしない……!!」
私ってペットだったっけ。
流血したらしい頭を擦り、そんなことを
考えた。
そんな、いつも通りの夜。貴方は現れた。
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