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遠くの学校にいくまでは、アンナさんや
ショウゴさんが先生代わりに勉強を教えて
くれた。
たまに時事問題を勉強しようとテレビをつ
けると、私が誘拐されたニュースをやってる
チャンネルに当たってしまうことがあった。
ショウゴさんはつまらなさそうにしつつ
すぐチャンネルを変えてしまうが、アンナさ
んはキャラキャラ笑いながらニュースに
突っ込みをいれていた。
「見てぇ秋ちゃん、『優しい子だった』、
『いいこだった』ってさ!スッゴい軽い言葉
よねぇ。薄情だわァ。」
「そうですね。」
その日も、番組は飽きずに私の誘拐事件に
ついてのコーナーを放送していた。
マイクを向けられて、顔を覆ったまま言葉
を紡ぐ母親。当たり障りの無い言葉を紡ぐ
同級生。暗唱できてしまうほどに繰り返され
たその映像の中に、私を本心から心配して
いる人なんてきっといないだろう。
それは本来悲しむべきことのはずだ。だが
不思議と私の心の中にそんな感情が浮かぶ
ことはなかった。
「…でも、もうなにも感じないので。」
そう、悲しくなんか無い。あるのは下手な
劇を見ているような呆れが少しだけ。
そういうと、アンナさんは一瞬だけポカン
としたあと、それは何よりだわね、と心底
嬉しそうに言った。
それを見て、思わず私も笑顔を浮かべる。
あんな他人の言葉より、この笑顔の方が
ずっとずっと価値があると思えた。
しばらくすると私のニュースは政治のニュ
ースになり、犯罪のニュースになり、今夜の
バラエティのCMになった。
数年もたてば、ハーメルンに誘拐された
一人としての私なんて消えていくだろう。
そのとき私は、この人たちみたいな光に
なれていたらいいと、ふんわり考えた。
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