ハーメルン

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 果たして数年後、私が光になることは なかった。  アンナさんたちとお別れして他県に移り、 普通の学校と普通の生活を送ることとなった 私が最終的に手に入れたのは、暴力も暴言も 空腹もない生活だった。  ありがたいことだ。アンナさん達ともたま に連絡をとり、世間一般で普通とされる生活 を送る。  幸せだ。絶頂はアンナさんたちと暮らして いた頃だから、二番目に幸せ。これが私の 望んだ生活だ。  でも、なぜだろう。時々、私の胸に北風 のように入り込む冷たいものがあった。  それは氷のようでありながら、無視して しまえば消えてしまうような、その程度の もの。しかし、私のどこかでずっと冷たさを 主張するものだった。  勤め先から帰る途中、冷たさを埋めるよう に買った中華まんをもすもす食べながら帰路 につく。熱いほどのそれを食べても、胸の 冷たさはいっこうに引かない。  白い息を吐きだし、最後の一欠片を口に 入れようと持ち上げる。  その時。  「……いよ……!」  「!」  近くにあった一軒家から、微かに悲鳴の ような声が聞こえた。  …まさか。いや、そんなことそうそうあっ てたまるか。しかし、もしかしたら。  結局そんな気持ちに負けて聞き耳を立てた 私の耳に飛び込んできたのは…悲しいかな、 予想通りの悲鳴だった。  しかしその悲鳴を聞いた瞬間、私は顔を しかめるでもなく涙を流すでもなく。 体を大きく脈動させ、薄い笑みを浮かべた。  それは、ようやく気づけた喜びから。  ……あぁ、この冷たさは火傷だったんだ。  鮮明な光で焼けた部位を冷やす僅かばかり の倫理観だったんだ。  理解したとたん、冷たいそこから熱い何か が噴火するようにあふれでた。それは胸を 焦がし、目をチカチカと点滅させる。  あぁ、あぁ!きっと焼き付いたのだ。 あの日、アンナさんが月光を背に受けて手を 伸ばす光景を視た瞬間に。  真っ暗すぎて何も見えなかった、何も 見なかった私の目に突然光を映してくれた。  憧れたんだ、火傷するほどに。  憧れたんだ、憧れたんだ、憧れたんだ!!  悲鳴を聞いて笑顔を浮かべる私は、さぞ 恐怖をあおったことだろう。すぐに表情を 引き締め、住所を確認してからその場を去る ことにした。  しばらくしたら、辞表を書くことになり そうだ。
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