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廊下に出て、引き戸を静かに閉めていたところで、ふと視線を感じて廊下の向こうを見ると、そこにはじっと優香を見つめる千代の母親の姿があった。
それまで真顔で見つめていたのが、優香と目が合った瞬間ぱっと笑顔になった。
そのまま速足で優香の所へ近づいてくる。
「優香ちゃん、お見舞いに来てくれたのね」
「はい。御無沙汰しています」
ぺこりと頭を下げると、千代の母は良いのよ、と昔みたいに笑いながら言った。
何となく引け目を感じていた優香だが、その笑い声を聞いて、内心で胸を撫で下ろした。
「今、丁度寝たところで……」
「そうなの。あらそれ」
千代の母が指をさしたのは、優香の胸に下がったペンダントだった。
「あの子、ちゃんと渡せたのね」
「ええ。凄く嬉しかったです」
「それね、あの子の手作りなのよ。石も鎖も、あの子が自分で買ってきたの」
「そうなんですか……」
「あの子言ってなかった? 照れくさかったのかしら」
千代の母に合わせて笑いながら、優香は教えてくれなかったことを少しだけ寂しく思った。
「ねえ、優香ちゃん」
不意に、千代の母が真顔になった。
「は……はい?」
「千代を、お願いね」
「あ、はい。もちろんです」
「今日はありがとうね。じゃあ、私は千代のところへ行くわ」
そう言った時には、もう千代の母は元通り笑みを浮かべていた。
千代の母がわざわざお願いと言ってくれたことが、優香は何となく誇らしかった。
もう二度と千代から離れたりしない。ペンダントトップの石に触れながら、優香はそう心に決めた。
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