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「そういうわけで、このペンダントは私の宝物なのよ」
「良い、話だね」
武治は少し涙ぐんでいるように見えた。
良い人だわ。こんな人と結婚できてよかった、と優香の顔には自然と柔らかな笑みが浮かぶ。
「それで、その千代さんは……」
「その後、すぐに……」
見舞いに行った一週間後の事だった。
容体が急変し、彼女は帰らぬ人となった。
友情を再確認した直後だっただけに、優香は千代の死を大いに悲しんだ。
そんな事もあって、優香はその事実を口にするのをためらってしまった。だが、武治には伝わったようで申し訳なさそうにごめんと呟く。
「いいのよ。もう随分昔の事だから。それにね、このペンダントをつけていると、千代ちゃんといつも一緒にいるような気分になるの」
そう言って、ペンダントトップに触れる。
ひんやりとした薄紫色の石は、もちろん何も答えない。
「それで、優香は今、幸せ?」
「ええ、もちろんよ。こんな素敵な旦那様と、可愛い子供にも恵まれて。最高に幸せだわ」
優香が大きく頷いたその瞬間。
ペンダントの鎖がぷつっと切れて、落ちたペンダントトップは座席の下に転がり込んだ。
「やだ……」
慌てて座席から立ち上がり、その場に跪いてシートの下を覗き込む。
「あった」
丁度シートの真下にペンダントの輝きを見つけ、そこに手を伸ばして優香はペンダントを掴んだ。
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