千代ちゃんの贈り物

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 安堵の息をついた優香の目に、真っ白く頬のこけた顔が飛び込んで来た。  一つ後ろの座席側から覗き込むその顔を見て、優香は思わず息が止まった。 「優香ちゃん……」  それは、あの病室で見た千代の顔だった。青白く頬がこけた顔。黒い髪が顔の前側に垂れ下がっていた。その隙間からは黒い大きな瞳がしっかりと優香を見据えていた。 「ヒッ!!」  思わず引っ込めようとした手を千代の細く白い手が掴んだ。  見た目からは想像もできない力で手は引っ張られ、座席のヘリに頭が押し付けられる。 「待ってたよ、優香ちゃん。私、待ってたんだよ」 「ち……千代ちゃん……」  喉が引きつって、上手く言葉が出てこなかった。  千代はにたぁッと笑うと、突如として黒い塊になり、ドロッと溶けた。溶けた黒い物はまるで通路に染み込むようにして姿を消す。  握った手の中からは、何やらもぞもぞと動く気配があり、開いてみると一匹の蜘蛛がいた。 「い、いやぁっ!!」  思わず振り払い、転がるようにして通路まで後ずさる。 「ど、どうしたんだ?」  驚いたように武治は立ち上がり、優香のもとへ駆け寄る。  寝ていた子供も起きて、目をこすりながら優香の方を見ていた。 「……ち……千代ちゃんが……」 「まさか。だって、その子は死んだんだろう?」 「でも……でも……」  千代の小さな囁き声が耳の中で響く。  だって、優香ちゃんばっかりズルいでしょう。  私はいないんだよ。  それなのに幸せになっちゃ……。 「だめ」  耳元で一際大きく千代の声が聞こえるたと、飛行機が大きく揺れて傾いたのは同時だった。
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