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駒野千代。
それが彼女の名前だった。
隣同士の家で、生まれた産婦人科も一緒だった。
幼稚園の頃から同じところに通い、二人はいつも一緒に過ごしていた。
千代はおとなしい、というより口数の少ない子だた。
自分の意見を主張するよりは、何かを訴えるように相手をじっと見つめるタイプだった。
優香はそんな千代の手を引いて、いつも行動していた。
色白で体が弱く、良く体調を崩した。
それは小学校に進んでからも同じで、千代はたびたび学校を休んだ。
そんな時、いつもプリントや給食のデザートを持って彼女の家を訪ねた。
「ごめんね、優香ちゃん」
小さく咳き込みながら、彼女は弱々しい笑顔でそう言った。
そんな時、優香は決まってこう言った。
「良いのよ。早く元気になってね。千代ちゃんがいないと詰まんないよ」
「私がいないと……詰まんないの?」
「もちろん」
「そ……そっかぁ……へへ。じゃあ、早く元気にならないとね」
「うん」
千代は照れていたが、嬉しそうな笑顔を浮かべていた。
だが、それからもなかなか彼女の体は丈夫にならなかった。欠席が多く、なかなか友達もできないようだった。
優香の方は友達も順調に増え、楽しい小学校生活を送っていた。
千代が欠席しているときに学校で楽しい事があると、優香はお見舞いがてら必ず千代の家によってその話をした。
優香が行くと嬉しそうにする千代だが、その話にはあまり楽しそうな顔をしなかった。
「この話、詰まんない?」
ある時優香が尋ねると、千代はちょっと絡みつくような視線を向けて言ったのだ。
「私が居なくっても、楽しそうね優香ちゃん」
その時、優香はハッとさせられた。
あまり学校に行けないから、千代には友達があまりいないのだ。
家で父親が楽しそうに会社での話をしていても、優香にとってはたいして面白くない。
それと同じで、千代にとって知らない人の話を楽し気にされても、楽しいわけが無かった。
「ごめんね、千代ちゃん。千代ちゃんがいないと、私本当には楽しく無いのよ」
「……ほんと?」
「うん、もちろんよ」
「良かった……」
千代が笑顔を浮かべるのを見て、優香はほっと胸をなでおろした。
それ以来、千代野前ではあまり他の人の話をしないように心掛けた。
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