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無事に高校の入学を決めた優香の下に、千代からの連絡があったのは二月の終り頃だった。
わざわざ家の電話にかけて来たのを不審に思いながら受話口に出ると、聞こえてきたのは弱々しい千代の声だった。
「もしもし……優香ちゃん?」
「う……うん。久し振り」
「高校合格したんだってね、おめでとう」
「あ、ありがとう……」
しばらくの沈黙があった。
自分の鼓動の音が妙にうるさく感じられた。
「私ね、入院してるから高校受験できなかったんだ……」
「え?」
「三年生の終わりごろからずっと」
「そ……そうだったんだ……。ごめん」
「良いの。私が言わないでってお母さんに頼んだの。優香ちゃんに心配かけたくなかったから……」
千代がそう言った途端、優香の脳裏にはあの逃げ出してしまった時の事が鮮明に浮かんできた。
千代がどんな思いで自分を見ていたのか。
そう考えた途端、千代に対する申し訳ない気持ちが一気に溢れだして来た。
「……ごめんね、千代ちゃん」
優香はぽつりとそう言った。
その言葉を口にすると同時に、優香の目から涙がこぼれだした。
「ごめんね……ごめんね……」
いろいろ言いたいことがあったはずなのに、優香の口から出たのはその言葉だけだった。
涙があとからあとからこぼれて止まらなくなっていた。
「あのね、優香ちゃん」
「うん?」
「渡したいものがあるの。優香ちゃんが高校に合格したお祝い」
「え……」
こんな薄情な自分の事を千代はちゃんと思っていてくれたのだ。
優香は自分の事を激しく恥じた。
「ありがとう。でも私……貰えないよ」
「あげたいの。お願い。受け取りに来て」
「分かった」
千代の教えてくれた病院名と病室をメモして、次の土曜日に会う約束まで取り付けた。
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