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「千代ちゃん相変わらず好きなのね」
「うん。面白いのよ、石の力とか、魔術とかって」
「そうなんだ」
そう言えば、ショッピングモールの方にも自然石を売る店があったな、と思い出す。
「千代ちゃんが元気になったら、一緒にパワーストーン見に行きたいな」
「うん。私も」
千代の柔らかい笑顔に、優香の心にのしかかっていた何かがゆっくり解けていくのを感じた。
「ごめんね、千代ちゃん」
「もう良いのよ。こうして来てくれたんだから」
そう言って、千代は細い腕をゆっくり伸ばして優香の手に触れた。その手は驚くほど冷たかった。でも、千代が差し出してくれたことが嬉しくて、寧ろ暖め返してあげようと優香はその手を握り返す。
「優香ちゃんの手、あったかいね」
「千代ちゃん……」
いつの間にか空気の重たさは消えていた。
「そうだ、その戸棚の中」
そう言って、千代は先ほど優香がケーキを置いた棚を示した。
片開きの戸を開けて中を見てみると、小さな白い箱が入っていた。
「この箱?」
「そう、それ」
取り出し、蓋を開けてみる。中には薄紫色の石がトップに付けられたペンダントが入っていた。
「これ……」
「高校合格おめでとう。私からのお祝いだよ」
「素敵……」
「ね、つけてみて欲しいな。私に付けさせて?」
「う、うん」
ペンダントを千代に渡し、少し斜めの姿勢になりながら背中と首筋を彼女に曝す。
背後からすうっと手が伸びて、彼女の胸元にペンダントのトップを垂らした。
「嬉しいな。優香ちゃんにまた会えて」
「千代ちゃん……」
「私ね、寂しかったの。もう、二度と会えないかと思ったから」
「……ごめんね」
「良いのよ。こうして来てくれたんだから」
「ありがとう」
首の後ろで留め金のはまる小さな音がした。
「さあ、できたわ」
千代にそう言われ、優香は体を起こした。そのまま病室に備えてある鏡に自分を映すと、ペンダントは良く似合っているように見えた。長い間会っていなかったというのに、自分にこれほど合う物を贈ってくれる千代に対し、優香は重ねて自分が恥ずかしかった。
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