告白

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 異動の辞令は4月1日付けだが、引き継ぎの関係で3月末には引っ越さなければいけなくなった。 私は、優くんが卒業式でいない日に業者を手配した。 ところが、卒業式の前日、優くんは花束を持って帰ってきた。 「桃香、今日、何の日か覚えてる?」 忘れるはずない。 「うん。記念日だね」 私は微笑んで答える。 私は今、ちゃんと笑えてるだろうか。 強張った表情をしてないだろうか。 そう、1年前の今日、私たちは結ばれた。 私は優くんから「ありがとう」と花束を受け取り、花瓶に生けた。 それから、優くんとお茶で乾杯をする。 優くんが、 「胃が弱ってるんだから、お酒はダメだよ」 とお茶を入れてくれる。 そして、お茶を一口飲んだあと、優くんは小さな箱を取り出した。 シルバーの包装紙にゴールドのリボン。 「プレゼント。開けてみて」 リボンを外し、ラッピングを解くと、白い箱。 それを開けると、中からは黒いベルベットのジュエリーケースが現れた。 私は思わず顔を上げて優くんを見る。 「これ… 」 「開けて」 優くんに促されてケースを開けると、中には小ぶりのダイヤの指輪がちょこんと煌めいていた。 優くんは、私の手からその指輪を取ると、私の左手の薬指にそっとはめた。 「帰ってきたら、ちゃんとプロポーズする から、それまでこれして待ってて 」 私は明日、いなくなるのに。 「ありがとう」 一生大切にする。 この先、どんなに辛いことがあっても、お腹の子とこの指輪があればきっと頑張れる。 優くんは抑えきれない私の涙をそっと拭ってくれる。 ありがとう。 本当にありがとう。  翌朝、「行ってきます」と卒業式に向かう優くんの背中を見送り、私は身の回りのものをキャリーケースにしまっていく。  10時。 私は、優くんに置き手紙を書く。 『今までありがとう。  さようなら』 私は、優くんの部屋を出て、自分の部屋に戻り、引っ越し業者を待つ。 梱包から搬出まで全部お任せであっという間に部屋は空っぽになった。 鍵を立ち会いに来てくれた不動産屋さんに返して、私は新幹線で実家へと向かった。
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