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「おい、ブース」
初めてそう呼ばれたときは、すごい勢いで振り返ってしまった。私に見つめられた巡は目を合わせようともしないで、斜め上を向いていた。
巡が本気で私をブスと思っていないこともわかったし、嫌われてもいないともすぐにわかったが、しばらくまともにしゃべっていないせいで接し方を忘れてしまったのだろう。
私は、それに関して何も言わなかった。
「何?」
「勉強教えて」
「どこの高校行くの?」
「お前んとこ」
「ギリギリじゃない?」
「ギリギリだね。ダメならダメでいーからさ」
それからときおり巡に勉強を教えた。本当にわからないときだけそっと部屋にやってきて、
「おーい。ブスブス。勉強教えて」
と低い声で遠慮気味に声をかけてくる。抑え気味な声のくせに、わざわざ毎回「ブス」とつけるのがおかしくて、いつツッコメばいいのかなと思いながらも、結局一度も指摘することはなかった。
巡は勉強が苦手というほどではなかったので、教えれば理解したし、無事に私と同じ高校に合格した。だが、当初どおり最後までギリギリの成績だったので、密かに心配していた。
巡が高校に受かって両親は大喜びだったが、一番うれしかったのは私だったと思う。
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