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「莉沙が勉強教えてくれたおかげね!ありがとうね」
母は本当にうれしそうだった。私たちの仲が悪くないとわかり安心したのもあるだろう。
私は高校二年生。巡は高校一年生。校内で巡を見かけると、いつもにこやかで朗らかで勝手に誇らしく思っていた。
女の子たちに囲まれていることもよくあって、さすが私の弟だと誰かに言いふらしたい気もしたが、複雑な家庭環境だし、顔も似ていないし、説明することを考えるとどうにも面倒でそこは我慢していた。
私はクラスの女の子の一部と、バンドメンバー以外とはしゃべらない。バンドをしていることを両親に話したことはないが、巡は同じ高校に入ってすぐに気がついたと思う。でも両親に勝手に話すことはなかった。
進路をずっと悩んでいた。医学、法学どれも興味はあったが、今は歌が何より楽しかった。
バンドメンバーはみんな同じ学年だったので、進路の話を聞いてみることにした。三人とも上京して大学に行きながら音楽を続けると言った。もう話し合っていたようだったので、疎外感を抱いてものすごく悲しくなったけど、それを伝えるのも気が引けたし空気が悪くなるのも嫌で黙っていた。
「莉沙はさ、めちゃめちゃ頭がいいから無理やり誘えないし、どうしようかなって思ってたんだ。医者になりたいんなら難しいだろうし」
みんなには私が医者になりたいように見えたんだなあと、何とも言えない気持ちになったが一つだけ強く言った。
「進路は決めてないけど、歌は止めないよ。もっともっと上手くなりたい」
バンドメンバーたち全員がハッとして静まり返った。きっと私が軽い気持ちで歌っているように見えていたのだろう。私はそのとき、誰からも目をそらさなかった。
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