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言わなくちゃ、と心に決めたそのときだった。廊下に巡が見えた。たぶんこの後、巡も三者面談だったので、母親が遅いのを心配して私の教室まで見にきてくれたのだろう。
私はいけないことだとわかっていたが、助けを求めるように巡に目配せした。私の進路は巡に関係ない。彼に迷惑をかけるわけにはいかない。そう思ったのに巡を見てしまった。
巡は勘の鋭い男の子だったので、すぐに何か感じ取ってくれたようで、
「莉沙!」
と突然大声を上げた。あまりに突然だったのでこちらがびっくりしてしまった。
「莉沙!!」
母が私の方から視線を外し、廊下を見た。
「巡?ごめん、もうすぐだから待っててくれる?」
巡は答えなかった。
「莉沙!早く!!」
巡が何を言わんとしているかはよくわからなかった。
「急いで!早く!!」
母は、自分の息子が何を言っているのかわからず、きょとんとしていた。
「莉沙!早くって!間に合わない!!」
何に間に合わないかわからなかったが、何度も叫ばれ、差しのべられた白い手のひらのつるんとした輝きが何とも魅力的で、気がつけばガタッと椅子を倒して立ち上がっていた。私はそのまま駆け出し巡の元へ走る。ためらないなく彼の右手を取った。
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