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私たちは生まれて初めて出会ったみたいに、自己紹介の挨拶のように握手を交わし見つめ合った。一瞬だったような気もするし、永遠に続くような無限が巡の後ろ側に見えたような気もした。これが宇宙なのかな、と巡の後ろから目が離せない。
巡は手を左手に持ちかえ私の右手を強く握ると、引っ張って廊下のど真ん中を真っすぐ走り出した。
「巡!莉沙!」
母の声を背中に受けながら、私は巡の背中だけを見て走った。この背中について行けば間違いないような、だがその責任を決して彼に負わせる気もないと必死になって走った。
中履きのスリッパのまま私たちは外へと飛び出した。途中、バンド仲間のギターの男の子とすれ違った気がした。
「りっ……さ!?」
そう聞こえた気がして一瞬だけ振り返って、左手をひらひらと振った。
(ま・た・ね)
微かに唇を動かしたが彼にそれが伝わったかはわからからない。走り疲れていたが、巡は走ることを止めなかった。
「どこ行くの」
途中、やっとのことで尋ねると、
「遠く……どこか遠くへ!」
と切れ切れの声が聞こえた。
「いいね」
私は笑いながら答えた。お腹がひくひくして、本当はおかしくてしょうがなかったけど、疲れて息ができず、思い切り笑うことができなかった。それなのに不思議と爽快で、笑えないのに笑ったあとみたいな心地よさだった。
「大きな声で歌えるところがいいな」
かすれた声で言うと、私の右手を巡が強く握り返したような気がした。
巡を取り巻く光が眩しくて前がよく見えなかった。彼がどんな顔をしているかも全く見えなかったが、私にも少しは、巡と同じ光が自分に宿ってくれていたらいいなと思った。
(了)
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