生と死の狭間

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その時ふいに、建物の方から遠くから声が聞こえてきた。 「ゆいちゃーーん、部屋に戻って」 エプロンを付けた女性が私に手を振っている。 懐かしい顔と声。 あれは職員の押田さんだ。 私は物心ついた時から児童養護施設で育ち、高校を卒業するまで、そこで過ごした。 聞いた話だと、私は生まれてすぐに乳児院の入り口に置いて行かれたそうだ。 だから私は、両親の顔を知らない。 施設を出るまで両親は一度も会いに来なかったし、今も連絡はない。 父親や母親が生きているのか死んでいるのかも分からないまま、現在に至っている。
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