生と死の狭間

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施設では、時折ケンカもあったけど、みんな仲良しで楽しく過ごしていた。 ふざけあったり、悩みを相談したり、色んな話しもした。 ただ、どんなに仲良しになっても唯一話題にしない事があった。 それは、どうしてここに来たのかという事だ。 子供ながらに、簡単に触れてはいけない場所だと認識していた。 たまに自分から事情を話す子もいたが、ほとんどの子は率先して話そうとはしなかった。 だから、 「どうしてここに来たの?」 そういう事を、安易に友達に聞く事もしなかった。 言葉にして話す事で、嫌でも当時の状況を鮮明に思い出してしまうし、悲しくて苦しかった思いを再度味わう事になるから。 それがどんなに辛くきつい事なのか、子供ながらお互いに分かっていた。 思い出そうとすると体調が悪くなったり、その事自体、思い出せないという友達もいた。 きっと、自己防衛のために脳がそうさせているのだろう。 生まれてすぐに捨てられた私は、親との思い出がないから、ある意味救われていたのかもしれない。 私には、普通にあるはずの思い出もないのだから。 普通って何なんだろう。 普通が何なのか知りたい。 普通でありたい。 ーー普通に生きていくーー これが長年の目標だったけど、結局、私は普通の人のようには生きれなかった。
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