冒険してみないか?

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     〜はじめての冒険〜  次の朝、男と女はギルド会館へと足を運んだ。会館、と言っても田舎の依頼受付所、申請窓口と小さな銀行窓口以外には何もない。男は掲示板から当該の依頼書を引っぺがすと、申請窓口に向かった。受付係には若い獣人の女の子がひとり。奥で会計係の禿げたオヤジがこちらをこそこそと窺っている。  しかしーーーここの受付はこんな人だったか? 「すんません。この依頼お願いします。」  ーーーはい、ダンジョンのマッピング作業の依頼ですね…えっと。 「早くしてくれよー。」  ーーーすみません、あなた星4レベル、中級に成り立ての冒険者ですが…。 「条件にはちゃんと、中級ならOKって書いてあるでしょ。」  ーーーすみません、あなたの今までの経歴、素行を調査しましたところ…。 「えー、ちゃんとほら、連れも居るんっすよ。」  受付嬢の前に女が姿を現す。  ーーーあ、あなた様は。  受付嬢は、はっとしたように口をつぐんだ。 「なになに。この人と一緒ならいいの。」  ーーーええ、ご安心下さい。どうぞ、お気をつけて。  ーーー無事なるご帰還をお待ちしております。  男はこの女に更なる疑問を抱く。この女はそれほど有名な冒険者なのか。  冒険者は各々鋼鉄の腕章を着けるが、そこに階級ごとに星が刻まれる。男は中級に上がったばかりで、星は4つ。先ほど女のマントからちらりと覗いた腕章には、片面から確認できただけで、5つの星が見て取れた。  その陰にはいったい幾つの星が刻まれているというのだろう。だから受付嬢も二つ返事で申請を受け付けてくれたのだろうか。  いやいや、雑念は依頼の失敗に繋がるぞ。 … …… ………  男と女は、渡された地図通りにひたすら住み慣れた地元の荒野を行く。そうして風通しの良い草原に辿り着くと、そこには見慣れぬ洞窟がぽっかりとその口を開いているではないか。 「さあ、頑張ろうじゃないか。」 「ちょっとお待ちになって。こんなところにダンジョンなんてあったかしら。そもそも、バドニーは原住民の大地、という語源があるくらい古くから人の定着してきた土地。ダンジョンなんて調べ尽くされているでしょうし、マッピングの仕事なんて依頼があること自体がおかしいと思いませんこと。それに、あそこからは大量の魔力波動を感じますの。この依頼、見過ごした方が…。」 「お嬢様よ。じゃあ、俺たちが見過ごしたとして、代わりに誰かがここに送り込まれるかもしれない。それで、そいつらが無事に帰還できるって保証出来るのかよ。じゃあ、この中の魔力波動の正体が外に出てきて、バドニーの町に向かって来たりしないって言えるのかよ。」 「でも、自分たちが危ない目に遭ったら元も子もない。」 「お嬢様は、やっぱり今でも怠惰なのか。俺は違うぜ。精霊に命を助けられて、使命を与えられてから、俺は怠惰を捨てた。きっちり、地味な依頼をこなしながらその時を待ってる。お嬢様は…なんて言うかさ、俺なんかよりよっぽど強そうじゃねえか。それとも、本当は見掛け倒しなのか。もしべらぼうに強くて、そんなお嬢様が一緒に行ってくれるなら、何かとんでもない物に出くわしても平気だって思うんだけどよ。」  女はキッと唇を噛み締めた。 「わたくしも、もう怠惰は捨てましたわ。どんな困難にも立ち向かうと決めましたの。もう、もう二度と失わない。奪わせはしませんもの。それにあなたなら。」 「怠惰じゃなく、ただ臆病なだけなら俺に着いてくればいい。いくぞ。」
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