16人が本棚に入れています
本棚に追加
ドレスアップして話したい夜
今夜のお嬢様はちょっと違う。桃色のドレスを身にまとい、髪を綺麗に纏めてご機嫌な様子だ。なぜだかそんな隣に座る男は、酒に酔うでもなく真面目な顔をしていた。
「お嬢様、この手紙なんだが…。」
「何ですの、こんな夜に限って。随分遠方からのお便りのようですし、今問題にするような事でして。」
「いや、俺の昔居たところからの、まあ紹介状みたいなもんなんだが。客人が来るようなんだ。さらに、この客人が発注してる依頼にも俺が選ばれた。」
「あら、そうなんですの。良かったじゃありませんこと。」
「だから、その、しばらくここには顔を出せなくなる。」
「え…、それは寂しいですわね。どれくらいの期間になりますの。」
「早くて、数ヶ月かかるかもしれない。」
カランカラーン…
女は不意に生ハムを突いていたフォークを床に滑らせてしまった。それはもう派手に、だ。すぐに店員が替えのフォークを差し出し、カウンターの奥へと消えていった。
「あの…聴いていただきたいですわ。この前の依頼で、直前になって躊躇ってしまった事、その理由を。」
「どうしたんだ、急に。」
「今夜は、少しおめかしして来ましたのよ。勇気を出して昔話を聴いて欲しくて。」
「でも、もう済んだ話じゃなかったのか。」
「聴いて欲しいのは、もっともっと、心の奥のお話ですの。男の方ってどうしてそう鈍感なのかしら。」
最初のコメントを投稿しよう!