ドレスアップして話したい夜

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ドレスアップして話したい夜

 今夜のお嬢様はちょっと違う。桃色のドレスを身にまとい、髪を綺麗に纏めてご機嫌な様子だ。なぜだかそんな隣に座る男は、酒に酔うでもなく真面目な顔をしていた。 「お嬢様、この手紙なんだが…。」 「何ですの、こんな夜に限って。随分遠方からのお便りのようですし、今問題にするような事でして。」 「いや、俺の昔居たところからの、まあ紹介状みたいなもんなんだが。客人が来るようなんだ。さらに、この客人が発注してる依頼にも俺が選ばれた。」 「あら、そうなんですの。良かったじゃありませんこと。」 「だから、その、しばらくここには顔を出せなくなる。」 「え…、それは寂しいですわね。どれくらいの期間になりますの。」 「早くて、数ヶ月かかるかもしれない。」  カランカラーン…  女は不意に生ハムを突いていたフォークを床に滑らせてしまった。それはもう派手に、だ。すぐに店員が替えのフォークを差し出し、カウンターの奥へと消えていった。 「あの…聴いていただきたいですわ。この前の依頼で、直前になって躊躇(ためら)ってしまった事、その理由(わけ)を。」 「どうしたんだ、急に。」 「今夜は、少しおめかしして来ましたのよ。勇気を出して昔話を聴いて欲しくて。」 「でも、もう済んだ話じゃなかったのか。」 「聴いて欲しいのは、もっともっと、心の奥のお話ですの。男の方ってどうしてそう鈍感なのかしら。」
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