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〜レンズを通して見る光〜
女は指輪を見せびらかしていた。
「これ、実はかなり効果の高いマジックアイテムでしたの。たまたま拾ったゴーストが進化して強力なボスになっちゃうくらいでしたもの。」
「ほう、お嬢様、それは惚気ですかい。」
「あら。何か気に障ることでもございますの。」
「あー、わかっちゃいねえな。」
女が男の顔を覗き込むと、男はかぶりを振ってすっかりと照れてしまったのだった。そこに割り込む声がする。
「あ、すんません。ちょっとお邪魔します。」
聴き慣れぬ地方の言葉だ。
「え、どちら様でしたでしょう。」
見れば背丈の小さな、眼鏡が不釣り合いの少女が男と女の後方に立っていた。
「ああ、ウチもあんたの事は全然知らへんわ。用事があるのはそっち。」
「お、おい。お前、こんなに早く着いちまったのかよ。」
どうやら男の知り合いらしい。しかし、失礼が程よく板についた朗かな少女である。
「いやあ、途中でばったり出くわしたペガサスに交渉したら、あっという間に連れてきてくれて。ほんま、びっくりしたわ。」
「ぺ、ぺ、ぺ、ペガサスですって。」
女はカウンターを叩いて立ち上がった。
「ああ、なんや知らんけど初めましてのお姉さん、よろしく。」
「ちょっと、人間がペガサスと意思疎通出来るなんて…そもそも、人前に姿を現す事だってないのに。」
「お嬢様、俺からの説明じゃ不十分かもしれないが、聞いてくれ。この子は俺の元いた研究室の後輩で、どうやら野生の動物やら魔獣やら幻獣やらと会話できるらしい。んで、皆んなと仲良くなっちまうらしいんだ。」
「もしかして、伝説にのみ存在すると言われている幻獣使い。」
「そんな小難しい事は分からんけど、ウチは動物が好きや。だから動物のことをもっと知りたい、研究したい。ほやから、こんな田舎までわざわざ来たんや。」
「田舎は田舎ですけれど、なぜ我がバドニーをお選びになられたんですの。」
「もちろん、先輩がいるから…と言うのは建前や。この街…」
いきなり耳を寄せて小声で喋りだす。
「精霊の泉っていうんがあるんやろ。いや、精霊自体に用事はないで。けどな、そんな力に溢れる所に住んでる魔獣は一体どんな考え方をしてるんかなって思うんや。」
確かに頷ける理由である。魔力から生まれた存在とは真逆、聖なる力に育まれた獣たちとは如何に日々を過ごしているのであろうか。正式に研究されることを是非とも望みたい。
「という訳だ。明日から早速この地方の動植物の研究の依頼に取り掛かる。終わったらまた一緒に酒でも飲もうや。」
女は珍しくしかめっ面を寄越した。そしてとっさに言葉を絞り出す。
「わたくしも、わたくしも同行致しますわ。そう、護衛。護衛が必要でしょう。」
その夜、その少女が眼鏡のレンズを通して見たものは、何故か光に満ち溢れ、自分の未来を大きく変えてくれるような、胸騒ぎに満ちた笑顔だった。
「ところで、この子が後輩ということは、あなたもかつては同じ研究所にいらっしゃったという事ですの。」
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