酒場〜男と女の怠惰〜

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酒場〜男と女の怠惰〜

〜酒場での出会い…それはありきたりのイベントのはずだった〜  そう、ありきたり…。  ここは冒険者が夢を追いかけて日々奮闘し、魔物が頻繁に出没し、何なら魔人が時に現れては町や国家に被害を為す。そして、今こそ勇者が立ち上がり、魔王率いる魔王軍との決戦を控えているという、まさにありきたりの世界なのである。  そんなご時世なので、どの都市でも武具の値段は高騰し、冒険者ギルドへの依頼は魔王軍とのいざこざに関する依頼ばかりで、それ以外は報酬も二束三文。ただ稼ぐためだけに、中央帝国軍に追随する義勇兵に志願する者が、日増しに目立ってきた。一薙の槍を握って旅立つ若武者たちを見送った地方からは、働き手がすっかり抜けてしまい、結果、街は閑散としてゆくのであった。  しかし、田舎を拠点としていた冒険者たちの中には、土地を愛する気持ち、感謝の気持ちを忘れない者たちも少なからずいる。特にこのバドニーの町には。 「お姉さん、隣いいかい?」 ………。  ドカッ…。 「おかみさん、エールをデカいジョッキで頼む」 「はいまいど」 「ああ、それから……こちらのお姉さんにおかわりを」 「……はいよ」  女性に話しかけるきっかけに一杯奢るというのは、無粋な男のすることか。それとも、ありきたりの挨拶なのか。どうあれ、この冒険者の町においてはこんな出会いがありきたりのイベントであり、こうやって仲間を集めてパーティーを組み、より高レベルな依頼に挑むのはやはりありきたりの光景なのであった。  しかし、そんなありきたりが、今回ばかりはあっさりと打ち砕かれたのだ。 「いいえ、結構ですわ。」
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