酒場〜男と女の怠惰〜

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     〜女〜  男はなぜその女に声を掛けたかって……。  大仰な鎧に身を包みあたかも強者に見せながら、だけど真っ白なローブのフードからチラリと美しい鼻筋の通った真っ白な肌を垣間見せたからだった。  その喉、唇から漏れ出た言葉、その真っ白な声は、上品さと透明感を十二分に含んでいた。これが男の申し出を拒否する言葉で無かったなら、そこに恋という小さな感情が芽生えたとしてもおかしくなかったくらいである。  男のため息がエールの泡を揺らし、肩を落としたのと同じくして、店の扉がギイイと音を立て、そこに正装をした執事らしき白髪(はくはつ)の男性が姿を覗かせた。それを確認するや否や、先程お隣さんになったばかりの女は、ガチャリと重いメイルの音を響かせて粗末な椅子から立ち上がり、店の出口に向かって去ってしまったのだ。 「お迎えに上がりました、お嬢様」  執事は女をリードし、二人は夜の闇に消えて行ったのであった。 「おいおい、あれでお嬢様はないだろう。しかも…さっきのって、食い逃げじゃねぇか」  気を落とした男は今までにないくらいの深酒をしてしまい、一週間分の稼ぎを一晩で空にしてしまったそうだ。
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