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〜男と女の酒場〜
男と女がお互いにそんな身の上話を交わしたのは、酒場で初めて出会ってからちょうど一週間目のことであった。男はいつも通りエールの大ジョッキを、女はいつも通り地方名産の柑橘の果実酒が注がれたグラスを傾けながら、頬をアルコールに染めて語り合った。酒場の灯と言うのはどうやら、男も女もお喋りにしてしまうようだ。要らぬ話と思いながらも、勢いづいて口が滑ってしまう。
「ところでよ、お嬢様。今日はまた、なんで鎧姿なんだい」
「え、何かおかしくて?」
「いや、昨日は店に顔出さなかったと思ったら、今日は泥まみれで鎧着てて。俺こないだまでのドレス姿、可愛くて気に入ってたのによ」
「今日はたまたまですわ。そう…たまたま」
男は鈍感ながら、訊いてはいけない事だったかと気付いたようで、慌てて話題を変えようとした。
「そうだ、お嬢様の恋の話を聴かせてくれよ、な」
「え。聴いてくださるの。わたくしの、膨大で長い、恋の恨みのお話を」
上手く話を逸らしたつもりだったが、どうやら抜け出せない沼に嵌ったらしい。
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