わかってくれているだろうだけでは・・・

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わかってくれているだろうだけでは・・・

その日、先輩とランチをしていて私(菜摘)は激しく動揺した それは全く知らないことだった 私はみんなに、内緒で同期の篤史と付き合っている 篤史は明朗快活で上司の受けもよく仕事も出来た 私が動揺したのは、3期上の女子の先輩の中村さんが 噂だけどさ〜 と言って話した一言だった 篤史くんさ、社長から娘さんと結婚しないかって言われたらしいよ ・・・・・ 私の頭の中は真っ白になった うちの会社は従業員50人ほどの中小企業ではあったが少数精鋭でその業界シェア70%を占める優良企業である その、中村先輩が、なおもつづけて、 でも会って、あちらから良い返事が来れば断れないよね そのかわりOKだったら、篤史くんの将来は安泰だよ いいな〜 なおも、私は突き落とされた気分になった 条件から言えば勝ち目はない でも篤史からはそんな話は聞いていない 自分だけでケリをつけるつもりなんだろうか 交際相手がいるので、と言って断ってくれたのか? それとも一応、考えさせて下さいと言ったのか でも、篤史にとってはいい話だと思う いやいや、そんな事を言ってる場合じゃない 私は気が気ではなくなった 週末になり篤史とデートの約束をしていたのでカフェで会ったが 何か言うかと思っていたのに普段と全く変わらない 隠しているんだろうか? こんな時、ズバッと聞ける性格の人がうらやましい うじうじしてしまう だって、篤史は人気者だから私なんて、振られても不思議でもなんでもないから その日のデートは心の中に疑いの気持ちを持ちながらだったので全然楽しくなかったしあまり記憶がない 腑に落ちないままその日は別れた それからしばらくして、あの中村先輩からランチに誘われて あのさ、あなたさ、篤史くんと付き合ってない? と、いきなり言われたので私は顔が引きつったのを見抜かれたと思った えっ、いや、そんなことはありませんよ! ふーん、一緒にいるとこ見たんだけど見間違いだったのかな? はい、見間違いですよ 危うくセーフ と思ったら、 それなら良かった あの、例の社長の娘さんとの結婚話は進んでるらしいからね そうなんですか!? 中村先輩は確信しているような口ぶりだった ほんと?篤史・・・ 篤史と言えば、会社が海外に進出するための先遣部隊として半年間アメリカに行くことになった やはり、期待されているんだなと思う アメリカに行く前の最後に会ったとき、篤史は 頑張って来るからさ 半年会えないのは寂しいけどお互いに頑張ろう と言って抱きしめてくれた とても嘘には思えなかったやっぱり中村先輩の話は噂なんだと思った 一方、中村先輩は、私に内緒で篤史に会っていた 篤史に 菜摘は、あなたのことを騙してアメリカに行くなら私はもう他に男をみつけるとか言ってたわよ えっ? なんで付き合ってると、わかったんですか? 前に偶然、見かけたのよ そうですか ぼくは菜摘のことを信じています 先日も約束したばかりですから ふ〜ん、約束したんだ?! 約束なんて、口先だけでどうにでも言えるわよ 篤史は菜摘の事を信じていたものの心に黒いものが広がるような気がした その数日後、篤史は渡米 アメリカでの仕事は激務で、なかなか菜摘に連絡することができなかった 菜摘は頻繁に篤史にLINEをするも、既読スルーされることが珍しくなかった わかっていながらも段々寂しくなっていく そんなところへ、中村先輩が言ってくる 社長の娘さん、アメリカまで行っているみたいだよ えっ? 寂しさに追い討ちをかける まさか、篤史に限ってそんなことがあるわけない そう、思うもののほとんど連絡が来ない毎日に寂しさだけが募っていった この時、中村先輩の嘘が見抜けなかった私はその言葉を信じてしまう 悲しみから逃れたくてお酒を飲みに行って知らない男性と関係を持ってしまったこともあった 夢から醒めたら、自己嫌悪になった もうすぐ、半年 篤史は一人で帰ってきてくれるのか? それとも中村先輩の言うように社長の娘さんと結婚するんだろうか? でも、もう菜摘の心はボロボロで待てない状態になっていた 突然、菜摘は退社して田舎に帰ってしまう それからしばらくして篤史が帰国した 菜摘が辞めた事を聞いて自分がなかなか連絡出来なかったせいだと後悔していた 中村先輩に詳しく聞きたくて食事に誘ったとたん、中村先輩が、泣き出した ごめんね篤史くん わたし、あなた達が、付き合っていることを偶然知って面白くなかったの その頃、わたし、付き合っていた彼が社長の娘さんとの結婚話が来たから君と別れて、あっちに行くよなんて言われたときで 菜摘がしあわせにしているのが無性に腹が立ったの だから篤史くんと社長の娘さんが結婚するみたいで、アメリカにも行ったみたいだよナンテ嘘ばかり話したの 初めは菜摘も信用していなかった でも、篤史くんからの連絡があまり来なくなってからは不安そうだった わたしは後戻りできなくてそれからも嘘を畳みかけて言ったから菜摘はどんどん元気がなくなっていったの ごめんなさい いや、僕が悪いんです 忙しくて、連絡が面倒で、でもわかってくれてるだろうなんて都合のいいように考えてしまっていたんです 田舎に帰った菜摘は抜け殻のようになっていた 朝夕の散歩 ただただ、歩く、何にも考えないで 景色が良くても何にも感じない菜摘 早朝、とても景色のいい橋をいつものように歩いていると ぼーっと向こうに誰かがこちらを見ているのを感じた 何にも感じることがなくなってしまっていた菜摘だが見覚えがあると思った と思った瞬間その男性、そう篤史が走ってきたのだ あっという間に菜摘は抱きしめられた 篤史は強く強く抱きしめた 菜摘は篤史の匂いに懐かしさを感じる 菜摘は篤史のジーンズを弱々しく握りしめた 篤史の温もりを感じているだけで自分の壊れた心が再生していくようだった 篤史は 待たせてごめん とだけ言って菜摘を強く強く抱きしめるのだった
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