164人が本棚に入れています
本棚に追加
昨日の朝、「今夜は特別に、早く帰ってくるよ。」という敦の言葉に、私は期待した。
その日は、遠距離だった敦の家に、私が押しかけ住み始めてから、ちょうど一年になる記念日だった。
私は以前から、家でお祝いしたいと言っていたが、最近の敦は残業続きで、すっかり諦めていたので、嬉しさ倍増だった。
ご馳走を作り終えた私は、敦が似合うと誉めてくれた白地に淡い藍色のストライプが入ったワンピースに着替え、ウキウキと帰りを待つ。
「ただいま~。」
約束通り、六時前には聞けた敦の声に、玄関へ足早に出迎えると、急に彼のスマホの着信音が鳴った。
画面には、「ヒナ」という名前と、見覚えのある可愛らしいヒヨコのアイコンが見えた。
敦は、少しためらったように見えたが、電話に出て用件を聞き、私の顔を横目で見てから、早口で答える。
「わかった、すぐそっちへ向かうから。」
私が問いただす間もなく敦は、
「悪い、トラブルがあって、仕事に戻らなきゃいけなくなった。」とだけ告げ、通話しながら家を出て行ってしまった。
一人取り残された私は、あっという間の出来事に茫然とする。
最初のコメントを投稿しよう!