前篇

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その、唇の端を僅かに引き上げて笑む顔に、思わずドキリと胸が高鳴って、 「あ、あの今夜飲みにでも……」 咄嗟に誘いかけた──唐突な言葉に、怪訝そうに眉根が寄せられる。 「……迷惑でしたら、その…」 場をどう取り繕っていいのかわからずに、ごくっと息を呑んで口にすると、 「……いいよ」 彼は答えて、 「仕事が終わったら、下で待っててくれるか」 そう言い置いて片手をひらひらと振ると、喫煙スペースから出て行った。 まさかOKしてもらえるなんて……と、眉間に皺が寄せられたような表情からしても、拒絶されるとばかり感じていた。 ほぅっと胸を撫で下ろして、 けれどどうして誘いを受けてくれたのかはよくわからないまま、やがて約束の退社時刻は迫った──。
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