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「あっ…すいません」咄嗟に目を逸らして、「な、なんでもないです」慌てて頭を下げた。 ──煙草を吸う人間もだいぶ少なくなった今、社内の隅へと追いやられた狭い喫煙スペース内にいるのは、彼と自分の二人だけだった。 なんとなく気まずい空気が流れる中、 「鳥羽(とば)さん! やっぱりここにいらしたんですか。 課長が探してましたよ?」 不意に同僚らしい社員が呼びに来て、 「ああ、すまない」 その男の人は灰皿にギュッと吸い殻をもみ消すと、「じゃあ、どうも」とこちらに軽く声をかけて戻って行った。
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