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「ほら…手、貸してやるから」 片手が差し伸ばされて、掴むのをためらっていると、 「遠慮も謝罪も、もう俺の前ではするな」 と、手がぎゅっと握られて、助け起こされた。 「悪かったな…急にキスなんかして、嫌じゃなかったか?」 「……いえ」と短く答えて、首を振った後で、 「……もう、遠慮も謝罪もするなって言うから、言いますけど……」 そこまで口にして、ごくっと口の中の水分を呑み下して、 「……悪かったとか、言わないでください……」 そう告げると、 「……はっ、はは…そうだな、悪かったも謝罪みたいなもんだしな…」と、鳥羽さんは声を上げて笑った。
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