前篇

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こんな場所で急に会ったことに面食らっていると、 「よく、会うな…」 棒立ちでいるのに短く声がかけられて、フッと軽く笑みが返された。 くしゃりと崩れた笑い顔に、目が奪われる。 弓成りに細められた目の(きわ)に浮かんだ、穏やかな表情を作る笑い皺を見ていたら、 「そっちも、天気がいいから屋上で一服でもと思った口か?」 と、訊かれた。 「あっ、はい…」 頷いて、スーツの内ポケットからタバコを出すと、 「……俺が、点けてやろうか?」 と、オイルライターを開け、点火用のダイヤルをジリッと回した。 吹く風に揺らぐ炎に、「すいません…」とタバコの先を近づけた。
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