冒険の理由

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 都心まで電車で50分。私たちの家は、駅から徒歩12分のところにある。  結構値の張る買い物だったけれど、あの人と私の貯金を使えば、支払わなければいけないローンは一気に半分以下になった。世間は晩婚化を問題視してるけれど、悪いことばかりでもない気がする。 「ただいまー!」 『お帰り』  娘が帰ってきた。廊下を歩いてくる可愛らしい足音が聞こえてくる。この様子だと手を洗ってはいないよね。  ドアが開かれると私は言った。 『こころ、ちゃんと手を洗いなさい』 「はーい」  ココロは面倒そうに返事をすると洗面所に引き返した。その背中ではランドセルが赤々とした光沢を放っている。彼女は今年、小学生になったばかり。  この前までよちよち歩きをしていたのに、月日が流れるのは早いものだと思う。窓から外を眺めていたら、ピーという音が聞こえてきた。  私は慌てて目の前のコンロを見た。やかんから湯気が噴き出している。
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