水場確保

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水場確保

水のにおいを追っていくと、ほどなく川についた。 水の色は澄んでいて、やまなのような魚も泳いでいる。 川の近くには、植物が青々とした葉を茂らせていた。 ワニがいたので、矢立は軽く頭を撫でてやった。 のどの辺りをくすぐってやると、気持ちよさそうにワニは目を細めた。 しばらく、そうやって、矢立はワニと遊んでやった。 ワニが川の中に入っていくのを見送る。 悠遊と泳いでいくワニを見て、矢立は、川に毒がないと推測した。 軽く、川の水を手ですくって匂いをかぐ。 飲み水として使えるかどうかの最終確認のつもりだった。 矢立としては、においを確認した後で、軽く味を見てというのは、一応ぐらいのつもりでしかなかった。 川の様子を見て、これは飲めるだろうと、高をくくっていた。 けれど、手ですくった水から、微かな異臭がした。 「血の匂い?」 上流の方を見ると、うっすらと赤い水が混じっている。 矢立は、上流へと足を進めた。 途中で岩の陰にいた黒くてうねうねするムカデっぽい小指くらいの大きさの虫を何匹か捕獲する。 おやつである。 上流に上がるほど、水の赤さは濃さを増した。 そして、予想通り。 そこには、死体があった。 革の鎧に身を包んだ、大柄な男の死体が川の中に仰向けに倒れていた。 昔、マンガで見た剣闘士がこんな格好をしていたように思う。 瞳孔は開いていた。 致命傷と思われる切り傷が、至る所につけられている。 恐らくは、上流で殺された男が川に落ちて、ここまで流されてきたのだろう。 一太刀で終わらせてやればいいのに、と、矢立は思った。 この男を殺した奴は、よっぽどの嗜虐趣味か下手糞に違いない。 矢立は、男の死体より上流で水を汲むと、家へと戻った。 晩御飯は、紫色のキャタピラのついた何かの丸焼きだった。 炭の味がしたが、食べられないほどではなかった。 次回は煮てみようと決めて、矢立は眠りについた。 今日は水場の確保ができたことが収穫だった。 バッタも大きいので、調理方法次第では一匹でかなりの期間食つなぐことができるだろう。 明日は、食べられる草がないか探してみようと、矢立は思った。 やはり、植物も食べなければ、健康に不安がある。
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