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異世界転移初日
朝、いつも通り起きた。
季節は、春から夏へ変わろうとしている。
日中の日差しこそ、強くなってきてはいるが、朝はまだ寒さが残る。
特に、矢立が住んでいるのは、山奥だ。
山の中に掘っ立て小屋を建て、そこに暮らしている。
板で適当に作られているので、防寒がきちんとしているわけではない。
だから、特に寒さは厳しい。
矢立も、冬の間はこの掘っ立て小屋には住まずに、近くに防寒用の洞窟を作り、動物の死骸を積んで死骸が腐る時に発する熱で暖を取っていた。
春になって気温が上がってから、掘っ立て小屋に帰ってきた。
暖をとるために使った動物の死骸は、洞窟の中にそのまま埋めてきた。
矢立は、家の外に出ると、まゆをひそめた。
昨日と風景が変わっている。
矢立は、川に程々近く、人に見つかりにくい木の生い茂った場所に、掘っ立て小屋を建てていた。
けれど、今掘っ立て小屋が立っているのは、崖の近くの開けた場所だった。
朝日が昇っている方を見ると、山の稜線が見えるのだが、その山はと言うと、見たこともない山だ。
辺りに生えている木も、見慣れたヒノキや杉やブナやクリなどではなく、見たこともないような木だ。
木肌が厚く、ムチムチとしている。
ただ、幹や葉の色は、以前の山と同じで茶色と白の幹と、緑の葉だ。
何の知識もなければ、普通の山だと思ったことだろう。
矢立は、木の根元にかがむ。
そこに生えているのは、キノコだ。
毒々しい色をしている。
ベニテングダケに似ているが、違うキノコだ。
矢立は、一つちぎって匂いを嗅いでみた。
食べられそうな気もするが、安全かどうかわからないものを口にすることはできない。
矢立は、手に持っていたキノコをぽいと捨てる。
この山が、今まで矢立の住んでいた山でないことは、明白だった。
それどころか、日本であるかすら怪しい。
少なくとも、矢立はこの山に生えているような木やキノコを見たことがない。
矢立が思い返すのは、昨夜のことである。
昨夜寝ていたら、急に床の下が青く光り始めたのである。
まぶしかったので、目隠しをして寝直した。
もしかしたら、あの光が原因なのかもしれないと、矢立は考えた。
恐らくは、昨夜UFOがやってきて、矢立の掘っ立て小屋を別の場所に運んだのである。
目的は不明だ。
しかし、謎の光と家の場所が変わったことを合わせて考えると、間違いないように思えた。
そうなると、この山は地球ですらない可能性がある。
まったくの未知の場所。
矢立は、現状を分析すると、次は行動について考える。
まず、この未知の場所で何をすべきか。
矢立は空を見上げる。
日は昇り、青空が広がっている。
雨は降りそうもないし、飲み水の確保が第一となるだろう。
幸い一週間分くらいの水と食料は、家の中にある。
矢立は、今日一日を散策に費やすことにした。
家に戻って、水筒に水を入れ、探索に必要になるであろうロープやナイフをリュックにまとめていれる。
久しぶりに全く知らない場所にきて、矢立は心が浮ついた。
気分はピクニックだ。
ズドオオオン!
家を出ると、目の前に一匹のバッタがいた。
矢立は手に持っていた棍棒で、バッタの頭をつぶした。
バッタはそのまま動かなくなった。
矢立は、朝食がまだだったことに気付いたので、とりあえずバッタの足をもいだ。
足だけでも、矢立の身長と同じくらいあるので、食いでがありそうだ。
矢立はとりあえず、火打石で火を起こして、バッタの足を焼いた。
外骨格があると火が通りにくいかと考えて、二本ほどは外骨格を剥いで焼いた。
矢立は、今までバッタの足を解剖したことはなかった。
それでも、今回解剖したバッタの足は、やはり地球の物とは違うような気がした。
白い繊維が集まっていて、表面がうっすらと緑に染まっている。
見た目は緑のカニカマといった風情だ。
実際に食べてみたところ、食感は柔らかくハムに近いが、味は植物性でタケノコっぽい感じだった。
アクが強いが、ムチムチしておいしい。
普段食べているバッタよりも、淡白ではあるが、癖になる味だ。
矢立は、結局バッタの足を6本ほど食べきった。
身の部分は、一応火を通して弁当にした。
量が多かったので、羽の部分など、結構な量が残ってしまった。
その場に置いておいたら、他の獣が寄ってくるかもしれない。
矢立はそう考えて、遠くまでバッタの死骸を引きずっていくと、埋めた。
そして、そのまま山の探索へとむかった。
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