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<第四話・小さな違和感>
そういえば、結局亮馬が相談したいこととは何だったのだろうか。それを操が思い出したのは、翌日朝練習のために学校の部室に来てからのことだった。
実のところ、このサッカー部での朝練習が義務ではない。来る生徒と来ない生徒はいるし、監督やコーチもいつも見に来ているというわけではない。ただ、レギュラーに入った生徒は一時間くらい前になれば来て練習していることが多いし、次期キャプテンの指名を受けた操も然りというだけである。実際、操が朝練習に来たとき、一人も人がいなかったということはまずない。つまり、操よりも勤勉でサッカーが大好きな奴が、他にも存在しているということである。
「あ、操君おはよ」
そのうちの一人が三年生の女子マネージャー門倉有栖だ。女子マネージャーの仕事がどのくらいの範疇になるのか、というのは恐らく部活によって異なるだろうが。有栖はこのサッカー部になくてはならない縁の下の力持ちである。みんなのタイム測定の補佐や怪我のサポート、シャワールームやロッカールームの清掃まで一手に担ってくれているのが彼女だ。勿論他のマネージャー達も非常に勤勉に仕事をしてくれているが、なんといっても有栖はこのサッカー部が試合の人数もままならなかった時から支えてくれている人物である。
同時に、サブコーチのような役目も担えるほど、高い観察眼を持つ。亮馬も頭の上がらない先輩だ。
「おはようございます、門倉さん。あれ?他のマネさん達今日はいないんですね?」
「美嘉ちゃんは補修、亜子ちゃんは風邪ひいちゃったんだってさ。美嘉ちゃんは一生懸命なんだけど、勉強が疎かになりがちだからなあ。一個のことしか全力投球できないんですー!って自分で言ってたし」
「あー……確かに田野さんそういうとこある……」
二年生のマネージャー、田野美嘉は操のクラスメートでもある。天真爛漫で元気いっぱいなところは、あの一年生ミッドフィールダーの風見亮馬と似ているところもあるかもしれない。ただ、亮馬と違って美嘉は残念ながらそこまで要領が良くないのである。亮馬は基本の成績は低空気味でも、元の頭が悪いわけではないしやる気になれば補修くらいは地力で回避できるスキルがあると知っている。しかし、どうにも美嘉はそのへんがうまくやりくりできないらしい。
全ては彼女なりに一生懸命サッカー部のサポートに努めたいと思っていることと、有栖の後継として頑張りたいと思って空回りしていることに原因があるらしいので、強く非難することもできないのだが。
そしてもう一人、一年生のマネージャーの橘亜子は、サッカー部もマネージャーを務めるには随分おとなしい少女である。とはいえ、観察眼は有栖に全くひけを取らないほどだ。彼女のアドバイスが大いに役立てられたことは既に何度もある。残念ながら少し体が弱く、体調を崩し気味という難点はあるのだけれど。
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