<第三話・賽は投げられた>

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――ほんと、響也ってば優しすぎるし……人の心配ばっかりしすぎるんだから。俺だったらそんな風に我慢したりしないで、真っ先に動いてなんとかしようとするところなのに!  友達の悩みは自分の悩み、彼の苦しみは自分の苦しみだ。ぼんやりとした街灯の光が照らす住宅街を、悶々と考えながら抜けていく。  悩んでいる彼に、自分は何が出来るだろう。  そう考えた末、あのキャプテン達に相談しようとしたのに――本当に何をやっているのか。いや、操のことを思うなら、今彼に相談していい内容ではなかったのかもしれないが。  なんせこれが知られたら、最悪サッカー部は――。 「!」  河川敷まで来たところで、気づいた。芝生のサッカーコートで、走り回っている誰かが見える。街灯の光を浴びて、キラキラと輝く艶やかな髪、すらりと伸びた長身と踊るように跳ねるボール。  見間違えるはずがない、響也だ。 「響也!」  バッグを背負い直し、亮馬は走り出した。時々彼は、部活後もこのあたりで自主練習をしているのをよく見かける。彼の家もここからさほど遠くはないから、練習場にするにはもってこいなのだろう。  ただ、今日は少々時間も遅い。この時間に中学生が一人だけで河川敷で自主練なんてしていたら、コーチや監督にお叱りを受けてしまうのではなかろうか。ただでさえ、彼はオーバーワーク気味だと注意を受けることが多いのである。 「ちょっと、なんで一人で練習してるのさー!頑張りすぎでしょ!!」  思わず叫べば、彼も気づいたのかボールを転がすのをやめてこちらを見る。  自分達がカフェに寄って話を聴いて貰っていた時間はそこそこ長いものだった。注文を待っている時間や寄り道をした時間などもろもろ含めて二時間近くが経過している。一体彼はどれほどの時間、此処で一人練習をしていたのだろうか。 「りょ、亮馬……」  ぐっしょりと汗をかいているその顔に、亮馬はやや違和感を覚えた。ただ練習で疲れているから、というだけではない気がする。  暗がりの下。ただでさえ片親が白人であるために色が白い彼の肌が――妙に青白く見えるのは、気のせいだろうか。 「……悪い。どうしてもボールを蹴りたくなって、つい」 「何かあったの?監督やコーチに叱られたばっかりじゃないか、練習しすぎだって。ましてやこんな時間に一人で河川敷なんて、危ないって。昔と違っていろいろ厳しいんだーって言われてるじゃんか」 「わかってるけど……」  ボールを抱え上げて、俯く彼。明らかに、何かを隠している様子だ。まだ数ヶ月程度の付き合いだが、それでも亮馬は知っているのである  響也が過剰なまでに我武者羅に練習に打ち込む時は決まって――何かとても、嫌なことがあった時なのだということを。
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