<第三話・賽は投げられた>

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「……何か、あったんだよね?」  だから、亮馬は。何かあったの?という言葉をもっと断定的なものに言い換えた。自分に嘘はつけない。それくらいには親しくしてきたつもりだし、何でも相談してほしいと先日そう伝えたばかりだ。そういう意味も含めて、まっすぐに彼に訴えかける。  苦しい気持ちを、一人で抱え込んで欲しくはない。自分達は友達で、星ヶ丘中サッカー部の大事な仲間だ。お互いをよく知り、思いやり、連携を取ることで強豪と渡り合うことができた、素晴らしいチームの一員なのだから。 「……なあ、亮馬」  きっと、言いたいことの大部分は伝わったのだろう。彼はじっとボールに目を落として、言葉を紡いだ。 「ずっと、考えてたことがあるんだ」 「なあに?」 「どうして、俺はサッカーをやってるんだろうって。きっかけは、兄さんとよくサッカーをやって遊んでたからなんだろうけど。でも、じゃあなんでサッカーを好きになったのか、っていうのがなかなか思い出せないんだ。気がついたら当たり前のようにやってて、それが普通になってて、“どうしてやるのか”なんてことも考えられなかったというか……サッカーがない日常を、考えることもできなくなっていたというか。だから、サッカークラブじゃなくて、星ヶ丘中のサッカー部で頑張ろうって思ったわけなんだけどな」  何やら、難しいことを言い始める。いや、言いたいことがわからないわけではないのだが。  彼がサッカーを始めたキッカケについては聞いたことがあった。年子の兄がサッカーが上手くて、彼のクラブの練習にひっついてまわっていたのが始まりだった、と。年子であるはずなのだが弟の響也の身長がそこそこ伸びるのが早かったということもあり、二人並んでいると双子に見られることもあるらしいが(ただし、兄の方は彼ほど目つきが悪いというわけではないので、見分けは十分つくのけれど)。 「なあ、どうして亮馬はサッカー、やってるんだ?」  それは、今更改めて問われると難しい問題だった。というのも、亮馬こそサッカーを始めたきっかけをよく覚えているわけではないからだ。  確か、幼稚園のサッカークラブでやっていて、全然うまくできなくて悔しかったから、とかその程度の理由であったと思うのだけども。
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