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「うーん。言われてみるとそれ、すっごく難しい問題かも!なんといっても俺は響也より頭が悪い!」
「そうだな、この間数学のテストが一桁の快挙だったもんな」
「そういう事は今思い出さなくてもいいのだよ響也クン!……あと頼むからキャプテン達には内緒にしてね、練習禁止命令出されたら俺死んじゃうから!!」
「はいはい」
ちなみに、自分達は同じクラスで、入部届けもなりゆきで一緒に出しに行ったという経緯がある。まあつまり、亮馬のテストの成績が超低空飛行というのも彼にはしっかり知られている事実なのだ。ちなみに中間、期末で赤点を取ると補修を課されて練習に出られなくなるのが星ヶ丘中学校である。公立でありながらそこそこレベルは高いらしく、時々凄まじいレベルの問題が出て泣くことになるのも事実だが。
「やっぱり楽しいからじゃない?」
そして亮馬は、非常にシンプルな結論を出すのだ。
「サッカーって頭も使うし体も使う、みんなとの連携も大事。いろんな要素があって、スリリングで、めっちゃ楽しい!それが理由でよくない?サッカーやってる訳なんて」
「わかりやすいな、お前は」
「あ、今馬鹿にしたでしょ!俺ちゃんと真剣に考えたのに!」
「はいはい」
頬を膨らませて抗議する亮馬。そういう顔するから未だに小学生に間違われるんだぞお前、と響也にやや呆れ顔で言われてしまった。
「サッカーをやると楽しい。サッカーをやって一生懸命ぶつかると、みんなで友達になれる。だからサッカーは“幸せの魔法”なんだって、昔同じマンションに住んでたプロの人が言ってたんだ。ああ、その通りだなあ、って俺関心しちゃってさ」
だからさ、と亮馬は続ける。
「響也もそうかな、って思ってたんだけど。違うの?」
すると響也は――何処か少し、寂しそうな眼をして。違わないな、と告げた。
「違わない、けど。でも、今の俺にはそんないいものってだけじゃないかもしれないって思う」
「どういうこと?」
「サッカーは好きだけど、俺はサッカーに依存してるし、縛られてるって思う。サッカーがないとダメだ、サッカーから逃げちゃいけない、そんなことしたら生きていけないって思うくらいに。だから……だから多分今、こんなことになってるんだ」
ざわり、と生ぬるい風が吹いた。サッカーボールを顔の前まで持ち上げ、表情を隠そうとする響也の。僅かに覗いた唇が、震えながら言葉を紡ぐ。
亮馬は思った。その時の言葉を、自分は一生忘れることなどないだろう――と。
「俺はきっと……サッカーに殺される」
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