<第一話・遥かなる道程>

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 だが、先述したように――操は、パスがあまり得意ではなかった。コントロールがどうのというより、正確にはみんなの位置を読んでパスを出すのがまだまだ下手くそなのである。  ただつっ立っている相手のところに、的確なボールを返すなんてのは訳のないことだ。しかし、実際のサッカーの試合はめまぐるしく動く。仲間がいる場所にそのままパスを出すわけにはいかない。基本は“仲間が走って追いつける空いたスペース”に出すことが多いのだ。敵の死角となっている空隙を見つけ出し、かつ味方が走って追いつける速度でパスを出すということをしなければいけない。これが、言葉にするよりも遥かに難しい。なんといっても、メンバー全員身体能力が大幅に異なるのだ。  足の速さだけの問題ではない。  足が速くても、瞬発力に限ればそこまでではない子もいるし、またこちらの投げた視線にまるっきり気づけないなんてタイプもいる。  逆に、こちらの出したいパスを予測して、先んじて走り込んでくれる有難い人物もいる。  先ほどのは完全に操の方のミスだった。響也は足も速いし瞬発力もある、場合によってはスペースを見つけて飛び込む視野の広さも見せてくれるオールラウンドプレイヤーだが、逆に“広い範囲を見すぎる”という難点もあった。つまり、常に自分チームの司令塔を意識していられるわけではないのである。彼が気づいてないタイミングで、あらぬ方向にパスを出しても追いつけるはずがないのだ。 ――ていうか、今から思うと響也が走っていった方向に出した方が正しかったな……あちらさん、右サイドに完全に寄ってたし。  まだまだ名司令塔への道のりは、長い。ボールを持って戻ってくる後輩を見つめつつ、ため息をつくしかない操だった。
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